第3章
  2、枯蟷螂 三角でもの 考える

  <その6> 国会で これを言いたiい         2005.1.23〜
                                        

国会質問骨子13章のご案内 その追加について

国会質問骨子13章のご案内             2005.1.23.

 与野党の「シベリア抑留関連法案」上程が予定される通常国会においては、採決を目指して総力挙げての取り組みが望まれますが、当の抑留者本人が何をやれば宜しいのか? 我々は国会で主張すべき口を持ちませんが、幸い有能有力な先生方の代弁を得まして、多年の宿願貫徹を期したいものと願っています。そのためには質疑の要点を吟味し、表現は平俗素朴に、勘所に触れれば執拗かつ重厚に、堂々の論陣を組み上げたい、そのための骨子を思いつくままに並べましたので、インデックス代わりにご利用願いたいと存じます。必要あれば更に詳細な材料と関連資料を提供する用意があります。

1、愛国心について

 祖国を愛し、命を捨ててでも国を守ろうという気概は誰しもが持つ心情でしょうが、そのためには愛するに足る国であるか、否かが前提ではないでしょうか。我々「シベリア抑留」の老兵は国のため国民のために長い間地獄の苦しみに喘ぎましたが、祖国はその苦労に何を以って酬いたでしょうか? 前大戦で敵国に抑留された各国の捕虜たちが、それぞれの母国から手厚い処遇を受けている中で、未払い賃金や抑留中の食費すらも与えず、今に到るも放置している国は我が日本国だけであります。世界に類を見ないこの非情冷酷な国を貴方は愛せるとお考えでしょうか?

 愛国心、愛国心と声高に叫ぶ人ほど愛国者にほど遠く、国を滅ぼした例を私は数多く見てきました。愛国心とは空念仏で済むものではありません、国が国民になすべきかをきちんとすることこそ、愛国心に繋がる道ではないでしょうか。

2、捕虜になれと命じたのは誰か

 我々兵士は好き好んで捕虜になったのではありません。“この際は国のために降伏してくれ” との大命に従って地獄に送られたのであります。“生きて虜囚の辱めを受けず” の戦陣訓は真っ赤な嘘でありました。我々が飢えと寒さと強制労働の三重苦に耐えて果たした労役は、国体護持とソ連への役務賠償のためであったことは明らかであり、国の中枢が “関東軍の兵士を使役にお使い下さい” と敵国に申し入れていたのも事実でありました。そのため関東軍60数万の将兵が強制連行され、6万有余の犠牲を生むという我が国始まって以来の屈辱となりましたが、これらの責任と償いを一体誰が取るのでしょうか?

 捕虜はどの国でも英雄または勇者とされ、それに相応しい尊敬を受けています。賃金も与えられない奴隷同然の「シベリア捕虜」は、せめて人間として扱われたい、普通の兵士としての名誉を回復したいと望んでいます。国の最高機関である国会議員の先生方に伺います、貴方の父や兄を奴隷のままで終わらせて心に悔いは残りませんか?

3、抑留中捕虜はどうして生き延びたか

 人間は食わねば生きてゆけません。ソ連に強制連行されその日から酷使が始まりましたが、苦難の日々を捕虜はどのように食い延びたのでしょうか? “たとえ牛馬の餌に等しい食い物でも、ソ連は食わせてくれたのではないか” その通りです。しかし貴方はソ連がそんなにお人好しだとお考えですか、冗談ではない、ノルマで追い立てられた血と汗と涙の賃金から法外な食費を差し引かれた、つまり自分の稼ぎで食い繋いだのであります。ハーグ陸戦法規の更に以前から、捕虜に食わせるのは抑留国の義務とされていますが、その費用をどちらが負担するかは別の話、これは講和条約で決めるのが国際慣習法で、日露戦争の時でもこのルールによって相殺し、帝政ロシアは差額5000万円 (当時) を日本に支払って清算しています。何れにせよ捕虜の自弁などの例は何処にもなく、「シベリア抑留」の給養費は当然ながら捕虜の所属国たる日本国の負担です。自国の兵士にめしもろくろく食わせない、このような人でなしの国が他にあれば教えてください。

4、労働賃金の未払いについて

 国が知らぬ 存ぜぬを決めているのは食費だけではありません。強制労働の賃金も同様に知らん顔の半兵衛です。働けば誰でも報酬を得る、これは古今東西普遍の真理で、刑務所の囚人でも倒産会社の社員でも・・・・、支払われないのは奴隷だけ。貴方でも受け取れなければ黙ってはおられないでしょう。“捕虜に賃金は支払わるべし”の国際人道法の定めを待つまでもなく、これは世界普遍の法則です。しかし「シベリア抑留」の捕虜には現に支払われていない。理由は兎も角、この現実を先生方はよく確認してください。

5、賃金は誰が支払うのか?

 “ 捕虜の賃金は支払われるべし” の支払責任者は一体誰か? 日本か、ソ連であるのか、それさえ判れば万事は解決ですが、その答えは既に明々白々です。文明世界のすべての母国が負担済で、日本兵でも南方、中国帰還の捕虜は日本政府が支払い、受け取っていないのは世界広し と言えども「シベリア捕虜」だけであります。

*旧ソ連も日本と同じくその稀な例外国ですが、私はこの国を文明国とは認めておりません。

また「日ソ共同宣言」第6項において日本から請求権の放棄を受けたソ連に人道的な責任はともかく法的支払義務は既になく、その責任は日本国以外ではありません。

 ところが国会では未だに次のような珍答弁を聞くことが出来ます。

 “労働をさせたのがソ連であるから、本来なれば支払いは抑留国のソ連(ロシア)がしてくれるのが本当。それを日本にやれと言うのも本当は問題としておかしい。” 

平成15.3.27.参議院厚生労働委員会での坂口 力厚生労働大臣。

平成15.3.13.衆議院総務委員会での片山虎之助総務大臣。

現職の二大臣が声を揃えて日本に責任はなく、それはソ連であると答弁しているのです。どうして問題としておかしいのか?そのおかしい点を大臣は筋道を立てて立証する責任があります。これが証明できない場合は直ちに政府起案の「未払い賃金支払い法案」を上程する大臣としての責任があります。

6、既に解決済論のいろいろ

 これら厳然たる事実に目を覆い、政府、与党は “「シベリア抑留」は既に解決済み” と称して逃避し、実に不道徳極まる怠慢を続けているのであります。債権者である捕虜がいない場所でこっそりと何時、誰が、どの様に解決したと言うのでしょうか?債務者の分際で軽々しく口に出来る台詞ではなく、また世間に通用する理屈ではありません。賃金支払いの連帯債務者であるソ連と日本が、債権者たる捕虜が一人もいない「日ソ共同宣言」の場において “お互いに払うのを止めましょうや” と談合し、それで債務が消えてなくなるものであれば、世の中こんなボロい話はありません。まさに悪名高い中世の徳政令の復活ではありませんか。

 盗人にも三分の理と申しますから以下、国の債務踏み倒し哲学でも聞くことにいたしましょう。

7、裁判所は国の責任ではないと言う

 その通り、我が国司法は遺憾ながら正義を裁く能力と勇気に欠け、我々の訴えを退けましたが、多くの矛盾と誤謬を含んだ苦渋の判決でした。しかし抑留と受難の事実を認め “補償の要否及び在り方は、国政全般に渉った総合的政策を以って決し得るものであり、立法府の裁量的判断を求める” として回避した結果であり、その裁定は韜晦を極めたものでありました。三権分立の下、司法、行政の不明で解決出来ない問題を最高権力の殿堂たる立法府で正して救済することは、民主日本の試金石と申せましょう。

8、「平和祈念事業」で対応しているではないか

 何一つ対応出来ていないからこそ今日の問題です。「シベリア抑留」は単なる一般戦争損害ではなく、従って国内法的戦後処理の範疇に入れるのはそもそも無理なことでした。本件は国際人道法上の犠牲であり、国際法に基づく労働賃金の未払いは国の裁量如何に拘わらない実定法的な問題であったのです。財政上の分け方に過ぎない戦後処理という器にミソもクソも押し込んで、たな晒しを企てたのが間違いの元であり、これでは抜本的な解決など出来る筈はなく、あらゆる批判を糊塗しつつ時を稼いだのを唯一の収穫に、「平和祈念基金財団」はいま解散の憂き目を迎えているのであります。

 この事業法案が可決された委員会で以下満場一致の付帯事項が付いたことをお忘れなく・・・・ “戦後強制抑留者に対する措置について、引き続き検討を行うこと”

9、「平和祈念事業」の黒い霧について

 序ながら・・・・

「平和祈念」という不透明な美名の下で何が行われてきたのか、天下り官僚の天国、または御用財団の好餌と言う声もあり、真っ先に行政改革の槍玉にあがって消される事業。“渋々やっている国のダミー なんですよ” はK総務大臣、 “基金400億が食い物になる” と苦に病むM元総理。一部の特権に偏在した事業使途も問題なら、累年10数回も続くモスクワシンポジウムなる行事の素性と性格は、果たして事業趣旨に収まるものであるのか、その莫大な経費と共に精査の必要があります。

10、内か外か? 両方とも嫌だ は通らない

 国は「シベリア」という内なる捕虜に賃金を払いませんが、それでは米、英、蘭などの外なる捕虜には払ったか、否、これも殆ど払わず、それぞれの母国が支払っています。内にも外にも両方に払いたくないと言うのは恐れいった強欲で、どちらかに払うのが当たり前、自国民自国払いの国際ルールに従って、国は即刻「シベリア捕虜」にも支払うべきであります。

  「シベリア抑留」の捕虜は帝国軍人であるのと同時に国際人道法に基づいた捕虜の身分を保証され、その反面 同法の強い拘束の許にあります。抑留中の労働に対する未払い賃金支払いを怠る国は1949ジュネーヴ条約第6項の “締結したいかなる特別協定も、この条約で定める捕虜の地位に不利な影響を及ぼし、又はこの条約で捕虜に与える権利を制限するものであってはならない。” に違反し、また、“締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする” とした憲法第98条に著しく悖るものといわざるを得ません。

11、相互放棄による国の二重基準について

 1956年締結の「日ソ共同宣言」において両国は “国及び国民の有するすべての請求権を相互に放棄” したのですが、国は「シベリア抑留者」に “いや、放棄したのは国の外交権と外交保護権であって、君たちの請求権まで放棄したものではない” と言い、この口車に乗せられたある団体は気の毒にも毎年モスクワまで行って賃金の要求をしています。一方オランダやアメリカの捕虜が訴えた裁判では180度主張を変え、″残念ですが貴方の請求権はすべてお国が放棄されていますから、完全かつ最終的に消滅しています“ と退けています。見事な二枚舌ですが、それならば条文の通り潔くすべて放棄を認めて「シベリア捕虜」に賃金を払ってください。

12、南方組に支払ったのは進駐軍の命令

 シベリアには支払わない国も米、英、蘭や中国から帰った日本兵捕虜にはすべて支払っています。国際慣習法により持ち帰った「労働証明書」と引き換えに大蔵省が払ったのですが、その理由として “進駐軍が払えと命令したから払ったのであり、国際法によるものではない” と言います。なるほど当時の進駐軍の命令は絶対でしたが “君はここで首を吊れ” と命令されて貴方はその通りにぶら下がりますか? いくら命令でも “何故だ?” と理由を尋ねるでしょう。実はこのときも国は “何故か” と質問し、説明を受けて充分納得の上で支払っているのです。代わり支払(立て替え金)で処理するつもりがイギリス軍に笑われ、“それでは日本に抑留されていたイギリス兵の賃金は貴国が払って呉れるというのか?有難い” と応えられ、目から鱗が落ちてやっと国際法の仕組みが判ったといいます。“命令だからやむを得ず払ったに過ぎない” は真っ赤な嘘、実は国際法のルールの通り正しい方法で支払っているのです。

13、貴国は一銭も損をしていない

 我々老兵は来るべき「日ロ平和条約」において、「シベリア抑留」の犠牲と貢献を足場に四島返還を有利に進めて頂きたい、この願い一筋であります。「シベリア抑留」はロシアのアキレス腱、これを武器に攻めないで何が外交か、この喉仏に刺さったトゲを抜かない限り日ロの恒久平和も友好も画餅であります。日ロ賢人会議も結構ですがせめてその名に相応しい知恵を発揮されて60余万労役の重さを生かすべき、そのためには払うべきものはきちんと支払い、官民一体の気構えが何より必要です。

 “スターリンの罪科とは言え、著しく人道に背いた「シベリア抑留」は遺憾に堪えません。しかし、気の毒なのは びた一文手にしていない捕虜の方々であって、貴国は失礼ながら一銭も損をしておられない” と相手に冷笑されないためにも・・・・

    国会質問骨子の追加について        2005.2.20.

 前回に続き以下もご検討下さい。

14、「捕虜収容所に収容されていた者に関するソ連邦との協定」の怪

 これは1991年4月、抑留死亡者名簿を携えて来日したゴルバチョフ氏が、ソ連の元首として抑留の事実を公式にみとめ、その事後処理のために我が国政府との間に結んだ初の協定ですが、その前文は以下の通りです。

“日ソ両国は人道的観点に立脚し、両国民間の真の相互理解及び相互信頼の強化を目指し、一方の国の国民で他方の国の捕虜収容所に収容されていた者(当該収容所で死亡した者(以下「日本人死亡者」又は「ロシア人死亡者」という。)を含む。)に係る問題を速やかに処理することが、この目的に資するものであることを確信して、次の通り協定した。

 これによると戦時捕虜はソ連だけでなく日本側にも「ソ連人を収容する捕虜収容所があり、死者も出た。」とし、第2条(日本政府のとる措置)として3項にわたり義務付けがなされていますが、これは日本人の常識にてらして実に不可解千万であります。ソ連兵をぶち込むラーゲリがわが方にあったとは? 本当ならそれをどのようにソ連に対して報告しているのか、是非承りたい。ありもしないことをあったようにして締結された協定とはどういうものであるのか!ときの責任者中山太郎氏に教えて頂きたい。

 万一ソ連捕虜ラーゲリが存在していたのなら是非伺いたいことがあります。双方捕虜の給養費ですが、誰がいつ、どのように負担したのか?その清算は・・・・ 拙稿3、の「抑留中捕虜はどうして生き延びたか」を参照され、支払者を明確に洗い出してもらいたいのです。

15、エリツインの謝罪は何故「東京宣言」に書かれていないのか

 1993年10月、新生ロシアの元首として来日したエリツイン大統領は、シベリア抑留を「ソ連全体主義の犯罪」と自ら断罪し、外交史上異例とも言える謝罪表明を数度にわたり行っています。ときの天皇も嘉承され、国民もまたその誠意を諒としたのでありましたが、そのとき結ばれた「日露関係に関する東京宣言」は奇怪なことに謝罪の言葉が一言も述べられていないのです。 領土問題と並び両国の最重要懸案である「シベリア抑留」は口先だけの詫びで万事が片付けられ、60万将兵の血と汗と涙は今も踏みにじられたまま、両国の卑劣な談合の犠牲とされているのであります。

16、我が国が「捕虜」の名を嫌い、「抑留者」としたいのは何故か

 2月17日のモスクワ共同は、ロシア政府は日本側が主張する「捕虜ではない、抑留者である説」を正式に拒否したと報じています。武装を解除された将兵が捕虜であるのは国際法に明らかなところで、「勇者」としての身分を保証されるのは万国共通の理念であります。ところが我が国は誤った「戦陣訓」の残渣によって独り捕虜の呼称を嫌い、あくまでも抑留者なりと言い張っていたのであります。世界の憫笑を買う愚論を何ゆえ外務省は固執するのでしょうか? 一つは捕虜を認めることは抑留中の未払い賃金を支払わねばならないからであります。

 何故なら “捕虜の未払い賃金は捕虜の所属する国の負担” が国際法の基本であるから。 二つ目はシベリア捕虜の賃金を踏み倒すことでサンフランシスコ条約26条の最恵条項を免れたいのであります。うっかり賃金として支払おうものなら それはソ連への役務賠償となり、他の戦勝国が黙ってはいない、その莫大な新しい賠償を恐れるからであります。世界がなんと言おうと「抑留者」としたいのであれば、政府はどうして北朝鮮拉致家族と同様に「シベリア強制拉致による抑留補償法」を成立させないのでしょうか。一切払いたくないという破廉恥な頬かむりを、何時まで決め込むつもりなのでしょうか。

17、戦後犠牲者援護法の82%強は軍人恩給

 毎年々々多額の国費を払い続け、既に総支給額は43兆円を越したであろう軍人恩給は今年も約1兆円、(最大は1988年の1兆6千億円強)。 しかもまだまだ続くのであります。戦後60年放置されたままの「シベリア抑留」への「民主党補償法案」は1回限りの435億円(改正案884億円)。戦争責任の多寡に正比例して支払われる軍人恩給に比べ、シベリア抑留者の謙虚さと愛国心の高さにご留意下さい。

18、売った側と売られた側と

 “次は軍人の処理であります。之につきましても当然貴軍に於いてご計画あることと存じまするが、元々満州に生業を有し家庭を有するもの並びに希望者は満州に止まって貴軍の経営に協力せしめ、其の他は逐次内地に帰還せしめられたいと存じます。右帰還までの間に於きましては極力貴軍の経営に協力する如くお使い願いたいと思います。” 

 これは敗戦直後の1945年8月29日に関東軍総司令部からソ連に出された「ワシレフスキー元帥への報告」の一部であり、 “貴軍の好情に甘え折り入って私共の希望をお耳に入れた次第であります 決して他意はありません” と恭順を誓った文書であります。満州のつもりがシベリアに化けたのは貧すれば鈍した結果でありましょうが、問題は “兵士を自由にお使い願いたく ” と熨斗をつけて引き渡した張本人らが億を超す軍人恩給を手にし、哀れ売られた下層兵の殆どがゼロで放置されている不条理であります。

19、「シベリア抑留」は国体護持の犠牲

 終戦時、我が国の最大関心事が国体護持であったことはポツダム宣言に唯一クレームを付けた一事を見ても明らかで、1億が馬前に枕を並べて討ち死にしようとも守らねばならない条件でした。とは言え実の所は天皇助命であり、「シベリア抑留」が戦犯天皇の急先鋒であったスターリンの宥恕を乞う苦肉の策であったことも明らかであります。これらの暗部を検証しない限り平和は遠いのではないでしょうか。

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