第3章
  2、枯蟷螂 三角でもの 考える

  <その2> この村で/枯るる他なし/いぼむしり   (朝日俳壇)
                                          2004.3.10~

外務委員会での諸問題について
朝日新聞大野記者への書簡
カマキリれぽーと22
前原誠司議員への書簡
心ある自民党議員に訴える
野中広務氏への書簡

外務委員会での諸問題について            2004.3.10.

 戦後60年を間近に控えて 未だ日ロ両国の間に平和条約が結ばれないとは、理由はともあれ普通の状態ではない。さすがに放っても置けないと 昨年秋以来動きがあるようだが、いずれプーチン再選を待って本年後半の大きな課題になるものと思われる。

 懸案は申すまでもなく領土問題だが、その解決に避けて通れないのが「シベリア抑留」である。地獄の底から辛うじて帰還した兵士の願いはタダ一つ、60万の犠牲を踏み台に四島の即時返還、これが生き残った老兵最後の悲願である。

 国は毅然たる態度をもってスターリンの非道を責め、非人道的な強制労役を謝らせ、その償いの証として四島耳を揃えて直ちに返せ! を厳しく迫ってもらいたい。そのためには「シベリア抑留」とは、をこの際キッチリ整理をしておく必要がある。

1、「シベリア抑留」がなぜ起こったか

 啐啄 という言葉がある。雛が孵るのは卵を内から破ろうとする雛の心と、外から助けようとする親鳥の力の合作である。「シベリア抑留」とは戦後の国土復興の労働力を喉から手が出るほど欲したスターリンの野望と、国体護持を願うためスターリンの宥恕を乞うた我が国の合作である。

2、 それはソ連への役務賠償となった

 ソ連にはシベリア出兵以後蒙ったとする数々の請求書があった。ソ連財務部が示した対日特別勘定は総額820億ルーブリ余 (約7兆円強)。 これに見合う関東軍将兵の強制労働は延べ労働日6億日。賃金総額 6兆円である。

3、役務賠償の確定

 1956年締結の「日ソ共同宣言」第6項後文により、両国はすべての請求権を相互に放棄することにより、強制労役は事実上の役務賠償となった。

なお同項前文でソ連は日本国に対し一切の賠償請求権を放棄しているが、この時には「シベリア抑留」は殆ど終了し、放棄するもしないも、取るものは彼等がすべて取り尽くした後であった。

4、役務賠償をしたのは誰か

 しかし、1918年のシベリア出兵以来ソ連が蒙った損害の莫大な賠償を償ったのは我国ではない。その完済人は抑留され惨苦を嘗めた60万の捕虜に他ならない。何故なら我が国は捕虜に一銭たりとも労賃若しくはそれに代わる補償金を払っていないからである。

5、世界の捕虜はどうか

 第2次世界大戦の各国捕虜でこのような冷酷な扱いを受けているのは日本兵だけである。殆どの国は英雄として、また勇士としてそれぞれの母国から手厚い賃金なり補償を受け取っている。(日本に酷使された各国の捕虜は労働証明書など何一つ渡されていないが、それにも拘らず自国民自国払い補償の原則に基づいて支給されている。)

 酷いのは日本だけ と言ったがこれには若干の例外があり、一つはソ連軍捕虜の諸君で、気の毒にもスターリンに利敵行為と見做されて冷遇されている。皮肉なことに日ソという非人道国の間に限り生じた悲劇であるのだ。もう一つのトクをした方の例は南方帰還の日本兵で、彼たちは国際法の定める所に従って日本銀行から賃金の支払いを受けている。6、どうして「シベリア捕虜」だけが・・・・

 事件発生以来いろいろの理由、経緯はあれ、この不条理が今も存在するのは紛れもない事実であり、立法、行政、司法が自らの責任を自らの手で始末できないという情けない有様だが、これは *カネが惜しいのか *アカに洗脳された兵士に施すカネが忌々しいのか *他の戦後補償に飛び火が怖いのか

7、国の作戦

補償のカネを惜しみ、それを雀の涙ほどの慰藉で誤魔化し *要求運動を分裂させて相打ちを図り *御用組合を懐柔して *老兵の死に絶えるのを待つ。

8、 モスクワ、シンポジゥムの怪

 御用組合を使い11年11回に渉って催されている民間折衝は「平和祈念特別事業基金」の費用によるもののようだが、この独立行政法人はこのような目的を超えた事業にまで手を出しているのか。またロシアに対して、「日ソ共同宣言」に反した補償要求をさせているが、これは外務省も承知の上のことであるのか

9、個人請求権放棄の二重基準の怪

 「シベリア捕虜」には “日本国民が個人として有する請求権まで放棄したものではない (小渕答弁書)” と言って国の支払責任を否定し、一方 オランダ、アメリカの元捕虜に対しては “彼らの請求権は平和条約において完全かつ最終的に放棄されている ”といって退けたが、これは完全な二枚舌であり、内の捕虜にも外の捕虜にも払いたくない と言う論法を外務省はどう説明するのか

10、結論

 話をもとへ戻そう、日ロ平和条約に「シベリア抑留」は避けて通れない。国はテーブルにつく前の地ならしとして先ず早急に捕虜及びその遺族に対して応分の補償を行い、晴れ晴れとした気分で堂々の交渉をすべきである。そうでないといくら激しく抑留の非を鳴らしたとしても相手の失笑を買うばかりなのだ。

 “成るほど お話はよく判りますが、お気の毒なのは兵士たちで、貴国は少しもソンをしていないではありませんか ” と。


  朝日新聞東京本社論説委員室 大野正美記者への書簡 2004.3.11.

 「喜びの歌と暗い絵」 と題した貴方の記事を喜びのうちに拝読しました。

香月の絵のことでこんな話があります。私の虜友であった著名な映画プロデューサーが生前、一本だけでも残しておきたいと「抑留もの」を手掛けたことがありました。エキストラを集めて取り掛かったのですが すぐにやめてしまい、落胆した私たちに彼が言った言葉は次の通りです。 “香月の顔にならないのだ、今の若者は・・・肉が付きすぎている、これでは別の映画になってしまう。” 眼窩の落ち窪んだ顔が魂を失い、誰も彼もが幽鬼のような同じ顔になる、あれでないと とても撮れないのだよ。と言うのです。事件以来59年、いま私たちはこの暗い顔のままの恨の生涯を終えようとしています。

 世界の捕虜がいずれも勇者としてそれぞれの祖国から手厚い処遇を受けている中で、シベリア抑留者だけが見捨てられたままの不条理は、どのように弁明しようと打ち消し難い事実であり、(同じ日本兵でも南方からの帰還兵に政府は労賃を支払っている)この差別を国は冷然と見据え、生き残りの死に絶えるのを待っているからです。

どうして「シベリア抑留」が、またそれが何であったのかが明らかにされないまま、真実は老兵の死とともに過去へ埋葬されようとしています。ご指摘の通り 日本がみずからの戦争責任をあいまいにした分 のツケは重く、その大きな悪影響はこの国を再び危ない道に誘い込もうとしています。

 抑留問題を最終的に決着させたのは 保守党の中でも鳩山、河野のハト派と称した人々でしたが、この未曾有の民族悲劇をタダで済まそうと企む勢力はタカ派と言う名の集団に他なりません。国家主義の海彦と山彦はコインの両面ですが、シベリアの老兵を捨てて顧みないのは海彦のほうであり、この主流こそが国体護持のために一度はスターリンへの人身御供として、御用が終われば一転してアカ呼ばわりの両義的犠牲を強いた張本人であります

申し遅れましたが私は1月27日、抑留処遇を巡っての最高裁で棄却の判決を受けた原告の一人であり、その後は残された最後の機会であろう補償法案上程に望みを託し、国会審議に蟷螂の斧を振ろうという者であります。これとて戦後処理の終了を言う海彦の反対を覆すのは容易ではなく、私はこの悲境に一人のゾラにも広津和郎にも恵まれない不運をつくづくと嘆ずるものであります。

 昨年の5月21日のこの欄で読んだ井手雅春記者の「異国の丘」に続き、今回の掲載は私にある期待を抱かせるのは早計でしょうか、正義をただす木鐸の響きを喜び、重ねての論陣を切望する次第であります。

 カマキリれぽーと 22                 2004.3.15.

 関西の春の訪れを告げる奈良のお水取りも終わり、早いもので提訴の日(4月1日)から満5年を迎えようとしています。 その間に賜りました各位の厚いご支援に感謝し、ここにカマキリの会解散のご挨拶を申し上げます。

 裁判は不本意な結果に終わりましたが、この闘いは「シベリア抑留」の誰かがやっておかねばならないことでありました。わが民族始まって以来の屈辱の根源が明らかにされることなく、このまま埋められてよいものでしょうか、関東軍の兵士がこれだけ国に舐められて黙って死ねるでしょうか。“ 最後まで意地を通した愚直も少しは居たようだ” と歴史が認めてくれる仕事は出来たように思います。国に捧げた忠誠をかくも無残に踏み躙った行政の不条理や、それを助けた司法の怯惰は、後世に厳しく弾劾され、カマキリの訴えは必ずや評価を受けるものと信じます。

 ここに第5期の決算報告書を添え、多年に渉るご厚情を一同心より感謝いたす次第です。

 原告4名は寄る年波に少々痛んではおりますが、気だけは軒昂、引き続き立法府での補償法案成立に余命を捧げる所存です。各位に於かれましても健康ご留意、どうか先々までのご厚誼を心からお願い申し上げます。

 なお、このれぽに補償法案上程のお知らせが出来ることを望んでおりましたが、この時点ではまだ民主党内で待機中のようで、イラク、年金など重要法案審議に押され、タイミングを計っての遅延と存じます。与党への調整もまだ充分とは言いがたく前途は多難でありますが、採否は今後の運動次第、特に国会活動がすべてかと存じます。どうか今後はカマキリの遺志を継いで闘う東京の「シベリア立法推進会議」の方へ直接のご支援を切望いたします。                                             

    衆議院議員 前原誠司氏への書簡           2004.3.20.

 唐突のメールを差し上げ、不躾の段々はどうかお許し下さい。                私は「シベリア抑留」問題解決を願う組織の世話人の一人でございます。このことは度々の国会請願や要請行動などでご高承のことと存じますが、既に事件発生以来59年を経た今日 今国会での帰趨こそが老兵最後の機会であろう と覚悟しております。

 私はこの度知人の薦めにより先生の 「領土」二島返還は誤まったイメージ を拝読し、 “あぁ、ここにロシアへの真の賢者あり” を直感いたしました。本年後半には当面するであろう平和条約締結に「シベリア抑留」を置き去りでは長く末代に悔いを残す懸念あり、ここは60万兵士の犠牲を踏み台にして 是非四島揃っての回復を毅然として主張されたいのが国を愛する老兵の願いであります。

 その地ならしとしての今国会には、貴党のお陰をもちまして宿願の「補償法案」が上程される運びとなり、この採否はそれだけの意義に止まらず、日露両国恒久平和に計り知れぬ影響を持つものと確信しております。それには外交、安全保障という別の次元からの高い見解が必要、かつ 解決の要諦であろうかと思う次第であります。

 貴党きっての論客であられ、「政権前夜の会」の領袖としての先生でこそ、この多年懸案の難問を快刀乱麻、一挙に解決に導く方であろうと期待するものであります。

 そこで御願があります、先生ご帰洛のとき、暫時を私たちのためにお与え頂けないものでしょうか、お膝元会員ともども参上し、決して野暮は申しません 出来る話をどうかお聞き取りくだされ、一臂のお力をお貸し賜りたく、切にご依頼申し上げます

 なお、限られた時間でございますので、お願いの骨子を以下添付させていただきました。

  前原誠司議員にお願いの骨子

1、結論を先に、今国会に上程を予定されている「戦後強制抑留者に対する特別給付金の支給に関する法律案」の採決のため、先生格別のご尽力を頂きたいのです。

2、前途は多端・・・・しかし、与党がうんと言ってくれないでしょう。野中広務、古賀 誠の両氏に面談し、縷々お願いをいたしましたが、とても賛同下さる雰囲気ではありませんでした。他は推して知るべし です。

3、その根っこ・・・・自民党には「戦後強制抑留者の処遇改善に関する議員連盟」があり、これが「シベリア抑留」を牛耳っています。補償をしない代わりに慰藉でお茶を濁そう との政府方針を奉戴して、一部抑留者の御用財団を操っています。

4、しかし・・・・ところが固い拒否反応の中に “どうもこのままではまずいのでは・・・・、この際シベリアの生き残りに何らかの処置が必要ではないか ” の空気が少しは窺えるように思えます。その一つが

5、有事関連法案との関連・・・・「シベリア抑留」での労働賃金や食費の未払いは、数ある国際法違反の中でも特に著しいもので、同じ捕虜として天国と地獄の差は、看過できない論議になりましょう。

6、日ロ平和条約で・・・・昨秋以来進められている事前協議や、プーチン再選から本格交渉も近いと思われますが、締結は決して領土問題だけで済むものではありません。本当の恒久平和は「シベリア抑留」を避けて通れるものではない筈です。

7、新しい「議運」の発生・・・・森元首相を代表とする「日本ロシア友好議員連盟」が発足したようですが、古い「議連」では対応出来ないと 新しい時代を視野に入れた慧眼はさすがです。

8、喉もとのトゲをぬくには・・・・「シベリア抑留」の未解決は日ロ両国友好のガンであり、何らかの手段が必要ですが、これには超党派の良識と、高度な政治性ではないでしょうか。

9、その手段・・・・民主党の補償法案を超党派で採択することです。曲がりなりにも「シベリア抑留」の犠牲者の納得を得、次の国際法違反の不条理をきれいに解消します。

 1)前大戦の各国捕虜の中で、抑留中の労働賃金を受け取っていないのは「シベリア捕虜」だけ。

 2)同じ日本兵捕虜でも、南方組に払って何故シベリア組に払わないのか。

 この二つの明らかな現実は国がどのように弁明しょうと否定できない事実です。

10、正々堂々の日ロ平和条約を・・・・“お話はよく判りますが、気の毒なのは賃金をびた一文手にしていない捕虜の兵士であって、貴国は一銭もソンをされていないではありませんか。” と相手に冷笑されないためにも、非人道的な強制労働の犠牲と引き換えに四島耳を揃えて取り返すためにも、払うものはきれいに払った上で腰を据えて交渉をして貰いたい、 これがシベリア老兵最後の願いであります。

    心ある自民党議員に訴える           2004.4.8.

 日本人は昔から、育てられた大恩を忘れず 子としての孝行に励み、後生安楽の死水を取って菩提供養を願うのを伝統の美風としてきました。親は子を慈しみ、子は親の恩に酬いる、人の世はこの繰り返しです。

 大正生まれは親である明治が引き起こした戦争を身を挺して戦い、その後始末に黙々と汗を流し、やがて世界が賞讃を惜しまない平和日本を次代の貴方がたに引き渡しました。その昭和人の貴方は祖国存亡に貢献した親たちに何をプレゼントしてくれますか、数奇な生涯を終えようとする「シベリア抑留」の親に、せめてもの謝意を示されるご用意はお持ちでしょうか。

 そのお気持ちがおありになるなら、いま国会に出される「戦後強制抑留者に対する特別給付金の支給に関する法律案」を全会一致で是非採決されることです。

1、「シベリア抑留」は祖国再建の尊い犠牲

 敗戦のどん底から 国と国民の身代りとして国体護持の生け贄となり、またソ連への莫大な弁済を償ったのは60万兵士の強制労働です。この悲惨な功績は子孫末代まで語り継ぎ、顕彰されねばならない民族の歴史であります。

2、「シベリア抑留」の労働賃金はいまも未払いのまま

 同じ日本兵捕虜でも、南方組に払って何故シベリア組に払わないのか。
 
 この明らかな国の不法は、いくら国が弁明しようと否定できない事実です。

3、「シベリア抑留」に支払の義務はない と国は言いますが・・・・

 なるほど最高裁は抑留者の訴えを棄却しました。“ 戦前の日本には国に賠償の責任がなかった” とする「国家無答責任の法理」の悪用と、国際人道法を避けた判決は、その後の法解釈から全くの誤審と申せましょう。また一歩退いて、司法が不条理を糾す機能を失ったのであれば、立法府でこそ正義の救済を図るのが選良の義務ではないでしょうか。

4、“その責任はソ連だ” と言う大臣発言の怪

 片山総務、坂口厚生労働大臣が口を揃えて “ その賃金は未払いだが、それを補償するのはソ連政府だ” と発言していますが、とんでもない間違いです。1956年「日ソ共同宣言」でソ連への請求権を放棄した以上、我が国が代わって支払わねばならないのは当然で、どの国でも母国払い、母国責任が国際法のルールです。

5、補償はしないが、その代わり慰藉をしている

 どうぞお好きなようにおやりください、と申し上げても、未払い賃金着服の不法がそれで解消されるものではありません。“ 捕虜の労銀は支払わるべし” 奴隷でもあるまいし、賃金を母国が支払うのは国際法が定めた実定法であります。

6、「平和祈念事業」の怪

 昭和63年制定の「独立行政法人平和祈念事業特別基金」はれっきとした天下りの受け皿で、見せ掛けの慰藉事業に蝟集しているのは権益を壟断する一部グループのみであり、抑留者不在の運営はさすがに目に余ったか、マスコミは「基金」の解散、解体を報じています。またこの基金400億の処分についても 将に老兵の死に絶えるのを待つが如き露骨で非情な方針は、遺憾ながら親への孝養とは申しがたく、不肖の息子の謗りを免れないものであります。

払うべきか、否か。いまはそのような論争の時でも、理屈の時でもありません。どう解決するかの一事であります。物事にはすべて潮時があり、生き残りの余命も乏しい今日、内外の情勢も漸く熟して「シベリア抑留」にも天機の到来です。今こそ高い次元の政治力で多年の懸案を一挙に解決すべきであります。

7、「シベリア抑留」と有事関連法

 「シベリア抑留」での労働賃金や食費の未払いは、数ある国際法違反の中でも特に著しいもので、これらは元となる「1949ジュネーヴ条約」を真摯に審議される気なら、同じ捕虜でも天国と地獄の差を、看過できない論議になりましょう。「シベリア抑留」を放置したままで恥ずかし気もなく、よくも審議ができるものだと 老兵は小首を傾げているところです。

8、「シベリア抑留」と日ロ平和条約

昨秋以来進められている事前協議や、プーチン再選から本格交渉も近いものと思われますが、交渉は決して領土問題だけで済むものではありません。本当の恒久平和は「シベリア抑留」を避けて通れるものではない筈です。

*ロシア政府の正式陳謝 *4島返還、 *未払い賃金の支払い *遺骨収拾 *墓地整備 は条約締結必須の条件です。

9、正々堂々の日ロ平和条約を・・・・

「シベリア抑留」は日ロ友好の喉もとのトゲであり、恒久平和のガンと申しても過言ではないでしょう。地獄の苦しみを舐めた抑留者には 謝罪あれば赦す心と、ささやかな償いにも納得する寛容が必要でしょう。その犠牲を踏み台にして領土問題を有利に進められたい。そのためには「補償法案」を採択し、払うものは綺麗に払った上で晴れ晴れとした堂々の交渉が必要であります。

 “お話はよく判りますが、気の毒なのは賃金をビタ一文も手にしていない捕虜の諸君であって、貴国は一銭もソンをしていないではありませんか。 ” と相手に冷笑されないためにも・・・・これがシベリア老兵の今生の願いであります。

10、18年前の自民党の心

  “・・・・大変な酷寒の地におきまして,強制労働に従事されたばかりでなく、栄養失調等で抑留者の一割にも及ぶ尊い生命が失われました。これら援護の措置も充分ではない上、南方地域におきましては日本政府により労働報酬が支払われておりますが、シベリア抑留者に対しては一切支払われた事実はないのであります。以上の事実に鑑みまして、国としてその労苦に酬いるため、特別な給付金を支給すべきであると考えます。”

 これは昭和61年4月10日、自民党の議員立法として準備された「被抑留者等に対する特別給付金の支給に関する法律案」の提案理由書の要約であります。これこそが天下の自民党の本当の心ではないでしょうか。

小泉総理は憲法に逆らっても靖国参拝を止める気はないと言います。殉難の兵士を悼む心が本当なら、何故「シベリア抑留」に冷酷でいられるのか、私はその心情を疑うものであります。

 また 愛国心を声高に言うなら、愛するに足る国であるか 否かが問われなければなりません。牛馬のようにこき使った兵士を、古い草履のように捨てて顧みない国を、どうして愛せましょうか。いま国が求られているのは同情ではなく、我々が国に捧げたと同じような国の誠意なのであります。

 心ある自民党の議員各位に申し上げたい、大正の親に一片の孝養を示されるなら進んで法案の採決を、そうでない方は伝統の美風を理解しない、日本人らしからぬご仁であると承知させて頂くことを申し添えたい。

   野中広務氏への書簡                   2004.4.18.

 お心のこもった書簡を嬉しく拝読いたしました。                     

 私こと、その後も「ごまめの歯軋り」を承知の上で、飽きもせず同封のような繰り言を繰り返しております。一つは幾つにも分裂した仲間への大同団結を、もう一つは自民党議員の方々への訴えであります。

 相沢英之、青木泰三氏らは政府の御用を承る財団となり、東家先生たちも補償を避けて軍恩加算の方向を呼称されるように変化された経緯はご高承のことでございましょう。

 最近、私どもの代表をしております寺内良雄全国抑留者補償協議会会長が93歳の瀬島龍三氏と会談しましたが、瀬島氏も“相沢君がもっとちゃんとやるべきだったのに、政府の窓口になって、自分たちの影響下にある抑留者に金を配っただけだった。これから私も日露政府を相手に最後の運動をしたい。抑留問題の解決なくして、平和条約締結も北方領土返還もない” と述べられたそうであります。

その議員連盟もかっては斉藤邦吉先生の主導、加藤六月先生の起草により「シベリア補償」の議員立法が用意されたこともありましたが、すべては16年前の「平和祈念事業法」を境にして大きく曲がってしまったように存ぜられます.
 戦後処理はシベリアのみではなく、戦後も59年を経た今日となっては手の打ちようのないことのように感じられます。

 しかしこれは戦後政治の大失態であります。ドイツや世界のどの国に比べましても類を見ない不条理が我が国の扱いであり、失礼を恐れず申し上げるなら これら政治の不作為は戦後政治家の “シベリア帰りは筋が悪い” との偏見と、正義への怠慢によるものと思うのであります。

1、財源がないからか?

 社会保障統計年報によれば、1994年までの戦争犠牲者援護費は累計38兆5576億余であり、その81,2%の31兆3125億余が軍人恩給であります。(1994年度単年は1兆5385億余) 以後10年の今日では44兆の巨額に達するものと思われますが、これは天皇の武官である職業軍人、若しくはそれに準ずる人々への旧態依然たる階級、年功の制度であり、皮肉にも戦争責任の多寡に比例する配分となっています。上に厚く末端に皆無と、このやり方は戦後の民主国として失政以外の何ものでもありません。高齢化により激減中とはいえ毎年々々1兆円の支給は財源が無いのではなく、シベリアに払う気がないだけのことであります。

2、「平和祈念事業」400億円の処分は?

 行政改革の面から何の役にも立っていない行政独立法人の廃止は当然であります。昨年の流行語大賞に従えば「毒饅頭」を食っている方々は存続を強く希望し、総務省を困らせています。問題は2008年と言う廃止の時期と基金400億円の処分法ですが、自民党5役が提案された4年後の生き残り分配案はなんとも露骨で無礼な発想ではないでしょうか。

 この事業はなんの役にも立っていないと申しましたが、実は大功をあげているのです。形だけの慰藉を身内だけでたのしみ、補償責任は「ソ連」だ、補償の代わりに恩給加算を取ってやると誑かし、この「平和祈念事業」は見事老兵が死に絶えるまでの時間を稼いだのであります。今回の400億円処分案はその本性を如実に見せてくれました。但し財務省はこれに異議を唱え、全額国庫返納を主張しているようですが、これは正論と申せましょう。

3、民主党案では気に入らない?

 財務省の主張は正論です。基金の資本金と言う国民の財産は国庫に返すのが筋と言うものでありましょうしょう。我々は正当な手順を踏んだ「シベリア補償法案」の党派を超えた審議を望み、大乗的見地からの採決を求めています。シベリア問題は既に理屈の段階ではなく、どう解決するかの決断の時期であり、与野党の鞘当てでは済まされない日本の、日本人としての決着を付けねばならないことは、見識ある政治家の方々ならつとにご承知であろうと存じます。今回の野党法案は倹しいもので、とても未払い賃金補償といえるほどのものではなく、多分に象徴的でささやかなものであります。この1000億円で多年の懸案が収まり、生存者の目の色の黒いうちに大団円が得られるなら、決して高い支出ではない筈です。日ロ平和条約締結を間近に控え、自民党議員の各位が高度の政治性を発揮されることを切望するものであります。(財源は平和祈念事業特別基金資本金の400億円と軍人恩給の自然減分の 年600億円を当てるだけで充分であります。)

4、自民党の法案上程を・・・・

 天下党の面目に賭けてもこの問題はわが党で との思し召しであるなら、是非昭和61年4月10日 自民党立案の「被抑留者等に対する特別給付金の支給に関する法律案」をご参考に、今度は閣法あるいは与党提案の議員立法としてお出し賜りたく、シベリア抑留者なら誰一人異論ないものと思われます。

5、最終案として

 それでも、 どうしても駄目だと仰るなら、せめて次をお願いしたいものであります。

 1)謝意の表明・・・・国際法に基づいた抑留中の未払い賃金ではあるが、諸般の事情で支払いが出来ないことを総理大臣の名に於いて詫び、それを了見した抑留者の寛容に対して深甚なる謝意を表明されたい。 (エリツィン大統領は1993年来日時に立派な謝罪をしています。)

 2)記念日の制定・・・・8月23日はスターリンが60万の将兵をソ連領内に移送するよう命じた運命の日であり、「シベリア抑留」はこの日から始まりました。至尊のお命を守り、国体を護持するため、またシベリア出兵以来の役務賠償のため、国と国民の身代りとして屈辱と苦難に耐えた功績を顕彰し、長く国民の記憶にとどめるよう国はこの日を「シベリア抑留の日」と制定されたい。

 これらは非力な老人にとり至難の業で、いつ吹くともしれない神風を待つ心境にあります。どうか先生お力の行き届く限りのご助力を切にお願いし、近況のご報告に代えさせていただきます。

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