第3章
  1、最高裁判決まで

  <その3> 補償法案の登場                 2003.3.19〜

補償法案の登場 補償法案に対する意見書 あと一歩の追撃を・・・
カマキリれぽーと14
未払賃金を払うのは
日本か、ソ連か?
潔いかつての日本は邪本になった
田英夫議員への書簡

補償法案の登場                           2003.3.19.

戦後強制抑留者に対する特別給付金に関する法律案要綱骨子

第1、      趣旨

 この法律は、戦後強制抑留者に対する特別給付金の支給に関し必要な事項を規定するものとすること。

第2、      定義

 この法律において「戦後強制抑留者」とは、昭和20年8月9日以来の戦争の結果、同年9月2日以後ソヴィエト社会主義共和国連邦又はモンゴル人民共和国の地域において強制抑留された者で本邦に帰還したものをいうものとすること。

第3、      支給対象者

 戦後強制抑留者で平成15年○月○日<施行日>において日本の国籍を有するものには、特別給付金を支給するものとすること。

        第4、 支給内容

 1、  特別給付金の額は、戦後強制抑留者の帰国の時期の区分に応じ次の表に掲げる額とするものとすること。

 2、  特別給付金は、三年以内に償還すべき記名国債をもって交付するものとすること。

帰国の時期>                     <特別給付金の額

昭和21年12月31日まで                    100万円

昭和22年1月1日から同年12月31日まで          150万円

昭和23年1月1日から同年12月31日まで          200万円

昭和24年1月1日から昭和27年12月31日まで       250万円

昭和28年1月1日以降                      300万円

     第5、      支給手続

1、  特別給付金の支給を受ける権利の認定は、これを受けようとする者の請求に基づいて、総務大臣が行うものとすること。

2、  1、の請求は、平成25年3月31日までに行わなければならないものとすること。

3、  2、の期間内に特別給付金の支給を請求しなかった者には、特別給付金は、支給しないものとすること。

4、  特別給付金に関する処分についての意義申し立てに関する行政不服審査法第45条の期間は、その処分の通知を受けた日の翌日から起算して1年以内とするものとすること。

     第6、      特別給付金に係る権利の承継

 特別給付金の支給を受ける権利を有する者が死亡した場合において、その者がその死亡前に特別給付金を支給の請求をしていなかったときは、その者の相続人は、自己の名で、当該特別給付金の支給を請求することができるものとすること。

     第7、      施行期日等

1、  この法律は、平成15年○月○日から施行するものとすること。

2、  その他所要の規定を整備するものとすること。

 「戦後強制抑留者特別給付金支給法案」骨子(案)に対する意見書

                        <池田私案>      2003.3.21.

 衆議院議員 長妻 昭先生

 早速ながらこのたび先生ご苦心の法案に深い感謝をこめて別紙のとおり要望を申し述べます。

 私はシンポジゥムにおいて司会役をやっていた者でございます。当日先生のご提案は参加者一同夢かと喜び、大きな希望に老いの胸を膨らませ、先生ご退席のあとも沸き立ったことでありました。しかし希望と実際とは別のもので、その成否も運動量に比例するのが現実ですが、忌憚のない意見歓迎のお言葉に甘え私案を纏めました。ご配慮頂ければ幸甚です。

 世界大乱、政務ご多忙のなか重々恐縮ですが、無力な老兵のためお力添えよろしくお願い申し上げます。

 第一について

 1、労働賃金の未払い分を支給すべき処、諸般の事情から現在それに相応する枠を組めないのは誠に遺憾であるが、それを辛抱し了見した抑留者の愛国心に対し深甚の感謝を込めた特別給付金の支給法案である。

 2、少ないとは言え実質は労働賃金の支給であるから、戦後処理問題の法律第66号は関わりがない。

    そうでないと問題の根は切れず、いつまでも係争は続くであろう。また本法は国際法による実質上の労働賃金支給であるから、他の戦後処理問題との関わりもない。

第二について   可

第三について   引き揚げ後死亡した抑留者の遺族も対象者とされたい。それがため本人分の減少も場合によりやむを得ない。(次に述べる試案なれば解消する)

第四について

 1、第一章の趣旨に基づき、抑留月×賃金の月額基準が望ましい。

    月額なれば背景に労働賃金を暗示し、本法案がそれに代わる措置であることを思わせる。

    原案に比べランク別の落差がなく、絶対額の不満はあっても時間による不公平、不足はない。

    軍恩基準の失敗、ドイツ補償法の成功はこの理由によるところが多い。

    ×(掛ける)10万円は事情により流動変化が可能。

 2 支給は1年毎の現金制とし、以後加速著しい自然減の活用を図ること。

 3 イギリスは1万ポンド(170万円)、アメリカの推定額は2万ドルが一つの目安

 4 月額基準の試算

    分類は・・・骨子試算の5段階をそのまま使用した。

    抑留月数とは・・入港年月日から割り出した平均抑留月(足掛けマイナス1ヶ月)

    支給額とは・・一人当たり平均(抑留月×10万円)

    対象者数とは・・骨子試算に従い帰還者数の6割

    計とは・・その合計、8、854億

    遺族数とは・・残りの4割

    支給額とは・・生存対象者の2分の1. その合計2、951億

    総計とは・・11,805億。これが×10万の最大額。歩べり20%とみて9,444億。

多いようだが軍恩の1年分。ただの一回で多年懸案が解決する。(ピーク時には1年、1兆6千余億であった。)

    骨子試算総額の5,343億より枠を取れないならば、×10万を5,7万と辛抱すれば成立する。

5 公務扶助料との関係

 不幸にして抑留中に死亡した者の遺族には自己申請により公務扶助料の制度があり、本法の対象ではない。

6 恩給法との関係

 軍人恩給受給者と恩欠者の問題が出ようが、恩給法と本法は制度が異なり、シベリア抑留の賃金未払いに何ら変わりはなく、抑留者であれば総て対象者である。しかし政府はかって「平和祈念事業基金法」の時 両者に差をつけた経緯があり、今回も別案を示す可能性はあれこれは立法者の意思ではない。

* その解消には恩給受給と本法受給の二者選択により何れかを失権とする。

 因みに 軍恩受給者は推定58%、27万人。(内生存者60%、16万)。

恩欠者42%、20万人。(内生存者60%、12万)。

7 本法を長島法と呼称したい。



 あと一歩の追撃を
桜井、矢島効果以後の争点について> 2003.3.25.  

 「シベリア抑留」は人道上問題であるのみならず、当時の国際法に照らしても問題のある行為であったと認識しており、労働の賃金は未払いであり、その補償する相手はソ連である。

 以上がこの度桜井、矢島両議員によって引き出された政府見解であり、“これがためには・高度の立法政策として国会の中で大いに議論する必要を・・・・” と、政府をしてここまで言わしめたのも野党各議員のたゆまぬ積み重ねの賜であります。漸く問題の的はここに絞り込まれ、解明はあと一息の正念場を迎えておりますが、更に糾明されたい争点について以下申し述べます。

 賃金の支払人は誰なのかを 脇目もふらず まっしぐらに追求して下さい。

 平和祈念、戦後懇、慰謝、最高裁・・・・、これらは何の係わりもありません。未払い賃金は国際法違反に発した事案ですから国内法的観念とは全く別次元の問題です。

 質問 1

  1) 片山総務大臣は “補償する相手はソ連政府なんですね” と言うが、それは未払  い賃金の最終支払い義務国は日本ではなく、ソ連である。“ということか? 否か

  2) どうしてそうなのか、その理由、法的根拠を示されたい。

   ここまで議論がゆけば勝負は決まりです。国は絶句するでしょうが唯一の弁明は “   その労働で利益を得た国が払うのが当然。” でしょうが

 質問 2

   1) それなら どうしてソ連(ロシア)に対して一度も抗議、請求しないのか

2) 「シベリア抑留」は彼我共に認めた事実上の役務賠償だから、ソ連が払う理由はない。払っていては賠償にならない。

3) そこで出てくるのが「日ソ共同宣言」第6項でしょうが、ここで国の二重基準の苦しい言い訳をゆっくりお楽しみ下さい。捕虜の請求権をそれぞれの所属国が放棄したことは今回のアメリカ法廷や平成13年の東京高裁判決で明らかです。

4) すべての請求権を相互に放棄する・・・・と言う表現は、未払い賃金の最終支払義務はソ連ではなく、日本であることを確約したことに他なりません。

5) 国際法における労賃の支払は、いろいろの経緯、変化があり、一旦は抑留国が、または所属国が払ったりしますが、(これは何よりも先に労賃を捕虜の手に・・・の精神から、払い易い方が払うのです。) その本当の負担者、最終の義務者は講和会議、またはそれに代わる条約で決められます。日露戦争でもその通りでこれが国際法のルールです。

   これらをなおざりにすることは1949年ジュネーヴ条約第6条及び憲法第98条の違反であり、国際正義にも道義にも悖る行為であります。

 我々は国会での口を持ちません。どうか60万の声を国会へ届けて下さいますようお願い申し上げます。

 カマキリれぽーと 14              2003.3.31.

 イラク侵攻は折角盛り上がった国会での「シベリア論戦」を冷やしはしないかと心配です。今日はお待ち兼ねの補償法案についてのお知らせです。

一、「戦後強制抑留者に対する特別給付金の支給に関する法律案」について

1、3月19日、東京でシンポジゥムが開催されましたが、法案の起草者である長妻 昭議員より法案の骨子が公開されました。

    これを叩き台にして意見を出してほしい。ただし法律的制約や資金総枠の限界があり、その辺りは運動量との比例や折り合いの変化もあり未知数である。

    更に練り上げて党内を纏め、野党共同提案の形で上程したい。

    以後は衆院の総務委員会に付託され、審議の上採決だが過半数の賛成が必要

    皆さんは地元へ持ち帰り、意見、希望を纏めてほしい。また地元の与党議員を説得して下さい。

 突然の朗報に満場はどよめき、引き続き熱心な検討が交わされました。

2、カマキリの会は早速協議し、遺族にも支給されるよう意見書<池田私案>を提出いたしました。

3、  いつ上程されるかは未定ですが、この際は巧緻よりも拙速を・・・一日も早く出して貰いたいと思います。

4、  自民、公明の与党議員への総力挙げての依頼が大切、一人でも二人でも身近なところからの努力が必要です。

5、  国から補償を得るにはこの法案を成立させるか、カマキリ裁判の勝訴以外にはありません。抑留者最後の運動になるでしょう。

二、国会質問の報告

 2003.2.12・衆院予算委員会・・・・・  中村哲治議員(民主)

 2003.3.13.衆院総務委員会・・・・・  矢島恒太議員(共産)

 2003.3.19.衆院厚生労働委員会・・・ 小沢和秋議員(共産)

このように「シベリア抑留」を見捨てるな の声は日増しに高まり、政府は厳しく糾明されています。カマキリはこれら先生の口をお借りして訴え続けています。裁判官も人の子、必ずや耳に入り良心は揺さぶられ、少しは性根の入った判決を出すでしょう。最高裁の判決は早くて年内、ほぼ来春と思われ、この一年が正念場です。

三、第4期決算のご報告

 本年度は上告にあたり、万全を期して代理人に江藤洋一弁護士を委任いたしました。そのため積立金を取り崩し、諸費用に充当致しましたことはご報告のとおりです。非力な原告に温かいご支援にいつも心の中で手を合わせております。どうかあと一年、納得の行く判決を引き出すまで倍旧のご援助を一同切にお願い申し上げます。

 *わたしこと、大腸ポリープ除去のため3月27日入院いたします。そのため期末を縮め、本期は3月25日締めとさせていただきました。

  未払い賃金を払うのは日本か、ソ連か?       2003.4.13.

    各党議員先生 各位

日頃は我ら「シベリア抑留」問題解決にご尽力下さいましてまことに有難うございます。特に今国会での核心追及は著しく進展し、あと一歩の現状は一同感謝に堪えない所であります。そのような最中に、私こと大腸切除のため入院いたしましたが、幸い経過良好、4月7日退院し、以後回復を待つばかりとなりました。

 議員立法近し を聞きますとそう簡単に死ぬわけには参りませんのと、国会論議も賃金は一体誰が払うのかで、いよいよ急所に入ったようでございます。以下をご検討下さいまして、どうか “政府よ、その支払人は日本国なのだ。” と引導を渡して頂きたく、切にお願い申し上げます。

 問題

 “ 補償する相手はソ連政府なんですね・・・・・。

 これは3月13日衆院総務委での片山総務大臣の答弁であり、引き続き3月27日参院厚生労働委において坂口厚生労働大臣も同様の答弁を致しました。

 未払い賃金など捕虜の有する個人請求権の最終支払義務者を母国である日本ではなく、抑留国のソ連である。と言うのです。現職の二閣僚が口を揃えての重大発言に我々は驚くよりも先に戸惑っています。 大臣、これ本気ですか?

 これは間違いです

1) サンフランシスコ平和条約や日ソ共同宣言、及び其の他二国間条約で、この義務者は母国負担となり、各国はそれを遵守しています。

2) 我国は内外の捕虜補償裁判で、当然母国支払責任を主張して、すべての相手を棄却しています。

3) 近くは今年1月、2月のアメリカ法廷を御覧下さい。

4) 二大臣の発言は、この主張と判決を覆すものです。

5) 外なる捕虜に払わなければ内なる捕虜に払うべきで、「シベリア捕虜」に払って当然、そうでないとこれは明らかな国際法の違反です。

6) 我国は長い間 この不条理を二枚舌で切り抜けて来ましたが、ここにきてゴマ化し切れなくなったのです。

 両大臣に立証責任を求める

 我々の側から “それは間違っている!” と叩きにいって潰すより “どうしてそうなのですか?” とソ連義務論を法的根拠を付けて証明して貰う方が良策だと思います。お考えの幅を知ることが出来るでしょうから。

 両大臣の理論的破綻は決定的で、そうなれば我々は更に一歩を進めて政府立法か、厚生労働委立法の形が可能になってくると思います。

 すべて決着済みの問題か?

 また両大臣ともこの乱暴な発言で切り捨てますが、未払い問題は一体、いつ、どのように決着したのか、数億とも言われる巨額の賃金を歴史から消し去るという奇術を誰と誰の間でおこなったのか、説明が必要です。それより以前に決着とは一体、どんなことなのかも教えてください。

 講和への道筋で捕虜の処理が最優先であること

 私は政府中枢に根本的な思い違いがあるように思います。戦争をやめて講和を図るには先ず捕虜の始末をつけなければ出来ないことがお判りではない。両大臣は賃金の未払いを公式に認めましたが、これは1949年ジユネーブ条約第6、第7項違反に問われます。

 以上は素人の素朴な疑問です。どうか質問の形に纏めて首の根っ子を押さえて下さい。老兵一同心からお願い申し上げます。

 潔いかっての日本は邪本(ジャパン)になった  −その病巣についてー 

                                  2003.4.20.

 慰安婦、強制連行、捕虜問題など、戦後補償の訴えに立ち向かう我国の姿はまさに邪悪の国そのものである。なぜなら自らの犯した罪を素直に認めて謝れない体質になっているからだ。“法律的な是非はともかく、過去に犯した我らが人道上の罪は我らの手で。”と償い続けるドイツに比べ、日本の態度は日本人であることが嫌になるほど浅ましい。

この3月、アメリカ元捕虜のレスターテニー氏が自署の日本語版上梓のため来日したとき、その翻訳に当たられた I 女史が “池田さんらの相手もテニーさんの相手も同じなのですね” と言われた言葉に驚いた。まさにその通り、立場は違え双方捕虜の訴えを阻むものは同一で、その名は日米の保守主義。以下その理由を申し述べる。

    

 フセインよりも更に悪質で凶暴な日本ファシズムも敗戦によって崩壊し、勝者アメリカは日本型民主化を戦後日本の廃墟の上に試みて、半ばを成功し、半ばを失敗した。ドイツと異なり、マッカーサーのやり方は天皇制を温存しての間接統治であったが、随所に他人ならではの大鉈を振るって次々と成果を挙げ、中でも際立った成功は軍事力の全廃と農地解放で、“資源乏しく国土狭小、民族食わんがためには他国へ押し入るも致し方なし” との乱暴な八紘一宇式正義は全くの嘘であり、この二つを改めるだけで忽ち世界屈指の経済大国になり上がるという、多少の僥倖はあったにしても見事な再生の基礎を立ち上げたのである。

 天皇を頂点とする官僚システムは強者には従順で、有能かつ安価でありその窓口は宮廷派、または和平派と言われた貴族グループであった。天皇助命を絶対の使命とする彼らと、早期安定をめざす占領軍の思惑は一致し、折からの米ソ冷戦の進行とともに更に強く結びつき、これが戦後民主日本の体質となったのである。

 アメリカ民主主義の公正と合理性は少壮気鋭のGHQにより目覚しい成果を齎した。惜しむらく、彼らは引き続き仕上げのメスを加えるべきであったのに 道半ばにして意欲を失ってしまった。満足感と慢心、それに加えて老獪な日本側の懐柔により堕落したのである。東京裁判と新憲法でほぼ立ち上がった日本民主主義には更に有終の仕上げが肝要で、戦争責任の糾明とその反省、これこそが欠かせぬ入魂の儀式であった。これは日本人自らがメスを入れ難い病巣であり、それであるからこそGHQの手が必要不可欠であったのだ。

 天皇制護持を曲がりなりにも守り、GHQを篭絡して今日の日本を得たのは宮廷派の総帥吉田 茂であり、その後裔としての自由民主党である。マッカーサーの占領行政を請け負うことから徐々に力を広げたこの勢力は、保守の残党を吸収し、戦争犯罪の糾明を巧みに無力化して排除すべきを増殖し、蘇生した民族主義者をも取り込んで戦後政治を独占するに到った次第はご存知の通りである。

 このように戦争責任の糾明と加害の反省には殆ど手がつかず、戦争犯罪は無傷のまま生き延びた。むしろ台頭した反動勢力に育まれ、まことに理不尽極まる邪悪が今日跋扈しているのである。

 宮廷派以来、自民党に到るまで この派に一貫する流れは強度の恐ソ、嫌共である。敗戦直前の彼らが最も恐れたのがスターリンで、天皇処刑を叫ぶこの男の宥恕を乞うためには関東軍引渡しの勅命まで用意し、兵士の役務賠償によって辛うじて切り抜けた苦い思いがある。骨の髄まで思い知らされた民族の恥は 犠牲となった60万の兵士諸共、深い穴を掘って埋め込んでしまいたいのである。少々の不名誉なら修復もできようが ソ連から蒙った「シベリア抑留」という未曾有の屈辱は処置なしで、忘れ去るより外に彼らには手は無いのである。

 坊主憎けりゃ袈裟までもで “なるほど兵士らの苦労は気の毒で、放置できることではない。しかしアカに洗脳され、その手先になって還ってきた彼らにカネを払うのも忌々しい。” この愛憎二筋の両義性を自民党は消化できないのである。“在ったと思うな、無かったことにしてくれ” かくして 老兵が死に絶えるのを待つより策がないのである。

 健康なアメリカ民主主義はときに変貌する。ブッシュ国務省はレスター、テニー裁判において 被告の日本側に肩入れをして米兵捕虜の訴えを不利にした。これは同形のドイツ裁判でのクリントンとは大違いで、前大統領は双方を周旋してドイツ補償(記憶、責任、未来基金)を生み出し、人道的和解に偉大な貢献を果たしている。結果としてドイツは綺麗に償い、日本はしぶとく逃げ延びたのである。

 日米捕虜の素朴な要求は共に充たされず、それを阻んだのは日米の保守勢力である。まだご納得ゆかない向きには更に若干の説明が必要であろう。

 ブッシュ政権発生当時のカリフォルニア法廷は原告の米兵捕虜が優勢であった。市民、メディアの圧倒的な同情と、上、下院の熱い支持、この雲行きに心を痛めたのが小泉外務省で、急遽田中真紀子を派遣してブッシュ国務省に泣きを入れた。小泉はブッシュに新保守の体質を嗅ぎ取り、前面恭順の意を示したのである。カリフォルニアにおける戦後補償の裁判はその蔓延の急と、規模において侮りがたい国難で、我国の手に余る事件になりつつあった。ブッシュ、小泉の友情以上の関係がどのようなものであったか、その合体ぶりは田中真紀子とパウエルが演じた寸劇の睦まじさをもって 当時のメディアは象徴的に報じている。

 日本国民の大多数がイラク侵攻に反対しても、小泉はためらうことなくブッシュに隷属した。アメリカが最も喜ぶことに従うのが兼ねての筋書きで、ブレアがプードルなら小泉は狆である。

 アメリカはレスターテニーたちの敗訴には応分の補償を以って応えるであろう、判決による国家としての義務を果たすためである。アメリカはかって平和条約において何の配慮も示さず捕虜の請求権を放棄した責任によるものである。しかし原告テニー氏には不本意極まる結果である。彼は “愛する祖国からカネを受け取る理由はない” と言い、“誤解しないでくれ、私の訴えは迫害した日本企業からアイアムソーリのひと言を聞くため以外の何ものでもない” と言う。

 ブッシュは過去の戦後補償を子分の日本に払わさず、すべてアメリカで支払うつもりでいる。しかしブッシュは天使ではない。小泉はもっと大きな請求書の小切手に署名することになるであろう。自分のカネが砂漠にはかなく消えて行くよりも、自らの過ちを償うために使えないものか、このままでは友邦アメリカに於いてさえダーティ日本の汚名を消すことが出来ない。

 もう一度言う

 “酷い目に合わせておいて詫びもせず、済みません のひと言も言わず、一銭の償いもしない日本。” これが歴史に定着しようとしている。

 更に言う

 “兵士をこき使い、都合が悪いと弊履の如く捨てて顧みない国、兵士の賃金さえも着服して平気な国。”

 (ジャ)(パン)国たる所以がここにある。

 我々はせめてもの願いから反戦、非戦、平和を叫ぶ。しかし戦争加害者としての償い一つ果たしていない民族の、その声は空しく虚ろに響くばかりである。

                                            

   田 英夫議員への書簡                  2003.4.27.

 唐突の無礼をお許しください。

 私はシベリア抑留の体験を持ち、ただいま最高裁で国を相手に係争中の者でございます。貴方はこの度 めでたく政界にお戻りの由、まことに嬉しく心強く存じます。 と申しますのは、平成13年3月22日参議院外交防衛委員会における質疑応答の記憶で、私は「シベリア抑留」に関してこれほど格調高く鋭い質問を他に知らないからであります。政府参考人は必死の弁明ながらこれが限界で、時間に救われましたが、私は国の論理破綻をまざまざと見て取りました。

 個人請求権の有無・・・憲法29条の補償・・・一般戦争受難論・・・憲法の予期せぬところ・・・国家無答責と、いつのまにか捕虜の権利は霧散するのですが、ここで未払賃金を中心に角度を変えて考えればどうか、これが私の持論であります。賃金の支払人は抑留国か、はたまた所属国か、この追及で容易に解明されるのではないでしょうか。

 ダレスの言を借りれば

 “所属国の国民(日本人)は、抑留国(ソ連)に請求権はあれども、その国(ソ連)に救済は求められない。” 即ち救済の義務は所属国(日本)以外ではありません。

以上は釈迦に説法、貴方なら更に深い考察あり、必ずや世紀の詭弁を、二重基準のペテンを暴いて下さると信じております。

 私はただいま病床にあり、手元の資料のみまことに不十分ながらご覧に供します。どうか老兵のため国会壇上での一臂のご助力を懇願申し上げます。 
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