第3章
  1、最高裁判決まで

  <その2>  シベリアの声を国会へ・・・           2002.11.2〜

カマキリれぽーと10 11.22行動を終えて
カマキリからの提言
民主党代表 菅直人議員への書簡
カマキリれぽーと12 衆議院議員 山本一太氏への書簡 参議院議員 桜井充氏への書簡1
参議院議員 桜井充氏への書簡2 レスター、テニー氏の出版記念会での祝辞

 カマキリれぽーと10             2002.11.2. 

  各位 やっと涼しくなったと喜ぶ間もなく早や木枯らし一号とか、季節の移ろいの早いのに驚かされます。頂くお便りなどで皆さんのお元気な様子を知ることは何よりの楽しみです。 さて、近況の報告です。

カマキリの上告理由書は10月15日無事最高裁に回り、審理が始まりました。   

事件番号 平成14年(オ)第1553号。(受)第1581号。 第3小法廷 

未払い賃金要求のため、国会座り込み(国会要請)が11月22日実行されます。

これは全抑協と未払い賃金要求の会の行動ですが、カマキリの会も協力致します。当日はテレビ、新聞などで報道される予定。

* 私、漸く10月15日にEメール開局  kamakiriikeda@yahoo.co.jp

   ヨチヨチ歩きですが受発信OK、アメリカ訴訟団代表のレスター、テニー氏のメッセージも届きました。彼たちの存在が此方の最高裁判決に大きく影響を与えるであろうことを、同封の資料から汲み取って下さい。

< 2002.10.24.  レスター、テニーより池田幸一へ >

 親愛なる友へ

生きる勇気を持つことは、時として、死ななければならないよりも困難なものです。あなたと私は、胸がつぶれるほどつらい過去を共有しています。味わった痛みも、受けた心理的拷問も、屈辱感も同じでした。私たちの苦難の唯一の違いは、誰がその悲劇をもたらしたかということだけです。

私は奴隷として囚われの身で過ごした年月が、自分の
当然の権利である正義を求める闘いのために、今の自分をより強くしてくれたことを知りました。「正義」というのは口先だけで語れるものではありません。それは血の通った思いであり、罪を犯した者が自らの責任と向かい合って欲しいという願いです。

あなた
がそうであるように、私は「同情」も「名声」も欲してはいません。あなたと私が望むのはただ「正義」のみであり、責任を取るべき者たちから尊敬に足る態度を示してもらうことだけなのです。

 友人のあなたのために、幸運を祈っています。意気揚々と、そして今度こそ決して負けないでください。

 < 2002. 10.25.   池田幸一よりレスター、テニーへ>

 尊敬する レスターテニー博士

 世の中には私の心をそのまま代弁してくれる人があることを今朝の毎日新聞で知りました。かって貴方の “許しと責任のどちらが欠けても無意味である” の一言は私の胸に強く残っています。なぜなら同じ悲劇を体験した者同志が行き着く願いであるからす。

私は戦前、貴国映画の洗礼を受けた一人で、F,キャプラ、J,フォードなど古い良き時代の賛美者であります。わが国もかっては道理正しく、人を思いやる気高い心の国でありました。貴方の青春の時間を奪い、尊厳を傷つけた醜い勢力が今も残っていることは恥ずべきでありますが、必ずや正義の回復は近かろうと信ずるものであります。どうかその日を健康でお迎えあるよう祈る次第であります。感謝の夜に・・・・

         

 < 2002.10.26.  レスター、テニーより池田幸一へ >

 Dear Friend

 本当に素晴らしいメッセージです。世界の他の人々が、人間はみんな同じだということに気が付かないのが残念です。みんな同じことを求め、同じ悲しみを感じているのです。共に生きるということの偉大な事業に加えてくれてありがとう。愛を込めて・・・・ 

                               翻訳・・・・徳留絹枝 

    11.22行動を終えてカマキリからの提言   2002.11.26.

国に謝罪と補償を求めたカマキリ裁判は現在最高裁に上告中で、その訴えは抑留者の言わんとする願望をほぼ言い尽くしたものとして思い残すことはなく、今は勝訴の判決を待つばかりです。そのためには勝てる状態を作ること、裁判官も人の子です。どうしても原告の主張を聞かねばならないそのときの環境を作ってみせよう。これが四年間闘って得た結論です。それには運動面の盛り上がりが欠かせません。どうかこの僭越な提言を検討下さって、可能な限り採用頂けるようお願い申し上げる次第です。

今回の成果

    主たる目的とした政府、国会中枢への要請は山も動くかの手ごたえ充分、前途に光明を感じさせるものがあった。

    参加した人々が やったぞ の充足感と自信を持ったことが大きく、以後の参加が保証された。運動はやって見てこそ増幅される、やはり地面からの積み上げだ、の実感は最大の収穫。

    最も期待されていたメディアの効果はさほどでもなく、これによる会員増強は依然容易ではない。

以後の展望

    来年の通常国会(5月頃か)に合わせ、再度の行動が望ましい。

    その時には長妻立法の上程を是非間に合わせて頂きたい。

    小沢議員取り組みの促進、何とか目鼻を・・・

各地区、そのための取り組み

    地元議員全員に接触し、運動の理解と支援を要請。何党に関わらず来春まで掛かって入念且執拗にやってみよう。

    与党だからダメだとは決して思わないこと、先生方も地元は怖いのだ。

    地縁、人縁、コネ縁、会員総がかりでやってみよう。

会員増強、組織拡大への私見

    各地区の相沢派の代表に会い、意見の相違や行き掛かりはさて置いて、取りあえず意見の合うこと、ともにやれることだけをやって見ようと持ちかける。

    未払い賃金の要求は当然の権利、これには反対も抵抗もない筈、これを共闘しませんか・・・

    その声明を地元新聞に記事にしてもらう、そのパフォーマンスを考える。これが大阪でやって成功した方法です、参考にして下さい。

 

8月23日、この日を「シベリア抑留の日」にする運動の提唱

 1945年のこの日、スターリンは“労働に適した日本軍捕虜50万人を移送せよ” と命じ、悲劇はここから始まりました。我々はこれを記念してこの日には 外務省とロシア大使へ行き、、日ロ恒久平和のため抑留補償を一日も早く実施させるよう要請しようではありませんか。相沢氏たちは2001.9.21.にキリチェンコと合意文書を交わし、その第5項に“記録文書に基づいた最初の日本人シベリア抑留者の死亡日を日ロ両国において公的なシベリア抑留哀悼の日に定める。” としていますが、私たちは哀悼より補償を先に考えるべきだと思います。

新聞投書のおすすめ

只今は拉致問題が関心の的ですが、折々のニュースに絡めて「シベリア抑留」を訴えたい。なかなか採用してくれませんが懲りずに続ければ出ることもあり、出れば反響と効果は大きいのです。私は投書の信義に従って朝日ばかりで他へは出しておりません。どうか皆さんからもお気持ちのままを 毎、読、産、その他へお出し下さい。

 民主党代表 菅 直人議員への書簡          2002.12.20.

 貴方は11月27日の衆議院厚生労働委員会において 「北朝鮮拉致被害者に対する支援に倣い、シベリア抑留者等に対しても支援を充実させる必要性」を強調されました。

敗戦後スターリンによって惹起された大拉致事件でありながら、今日ほとんど顧みられない「シベリア抑留」の悲劇を、よくぞ国政の場で言ってくださったと、老兵一同心から感謝し喜んでおります。

“それは戦時であって平時ではなく、同列に論ずべきでない” という坂口大臣に “戦時も平時もありませんよ、大臣らしくない答弁ですね” と切り返されたのは胸のすく思いで、貴意のとおりシベリアは戦後も戦後、8月15日以後の事件であり、これをしも戦時というなら北鮮拉致とて、いまだ日朝講和も戦争処理も終わらない戦時状態の出来事であります。また “仮に戦時としても一方に手厚い措置をしているではないか” と貴方は軍人恩給を取り上げ、条理に合わない不公平を鋭く突かれました。ご指摘のとおりこの失政が戦後処理をどれだけ狂わせ、道理と国益を損なったか、また国際的信頼を失ったことでしょうか。

以下それらについてご一読を願うものであります。

1、  軍人恩給とは

1)      1953年に復活したこの制度は、戦後処理費全体の82%、既に支給総額の累計は42兆円を超えています。

2)      我国の対外賠償は有償、無償を合わせ約1兆円余、模範生といわれるドイツでさえ10兆円余と聞いています。

      このことは折角の血税が使われるべき所に使われず、大半が旧軍人の懐ろへ流れたことを示しています。

4)      その恩給法(9条3号)とは、階級と年功制の職業軍人と古参兵のためのものであり、上に厚く下に薄く、赤紙一枚で召集された末端下層兵士の大半と外国籍兵は切捨てという実に前時代的な制度であります。

5)      受給者の落差も激しく、年額830万から66万まで、既に受給1億円を超える方々も無数にあるものと思われます。

6)      反面、シベリア抑留者の過半は欠格で、一銭も支給されません。

7)      軍恩支給のピークは1987年の1兆6329億で、目下激減中です。

2、  憲法に公正と信義を言う我国が、これで国際社会において名誉ある地位を占め

ることができるでしょうか。戦争を指導した高級軍人が毎年巨額を取り続け、一方裁判所では内外の戦争被害者が補償を求めて列をなし、賃金さえも未払いのシベリア抑留者が国会へ座り込む。同じ敗戦国のドイツや他の国々に比べ、この不条理をどのように考えればよろしいのか。

3、  シベリア抑留者の願いは一つ

 われわれは愚直なうえにくち下手で、“強制労働の未払い賃金を払って貰いたい” のひと言がうまく言えないのです。補償金でも支援法でも、ましてや国の恩恵を求めるものではありません。“労働には賃金が払われる” という世界普遍の原則が守られなければ、それは奴隷です。われわれ捕虜は他国のように愛国者や勇者など言ってもらわなくてもよろしいが、せめて奴隷ではなく人間として死にたいのです。

4、  民主党への期待とお願い

 この薄情な国で、われわれの気持ちを理解し尽力下さっているのはこの党です。

桜井 充議員は12月12日、われわれの叫びを「日本の戦後処理問題に関する質問主意書」にまとめて内閣へ出して下さいました。長妻 昭議員は1月の国会に合わせ「未払い賃金もしくはこれに代わる給付金を求める法案」作りに取り組んでいただいています。また11月22日には前幹事長であられた中野寛成議員は野党の協議事項として取り組みたいとのご意向でした。

 これらは抑留者長年の悲願であり、また残り少ない命を賭けた望みでもあります。貴方は坂口大臣に “これらの支援は裁判所の結果を待つまでもなく、国会において充実すべき問題である” と結ばれました。どうか新生民主党の総力を挙げて老兵の名誉と正義の回復にご助力下さらんことを切望いたします。

   カマキリれぽーと12            2003.1.30.

  各位

 皆様お元気で新しい年をお迎えのことと存じます。たくさんの賀状有難うございました、そのお礼もそこそこに年末以来の朗報のお知らせです。

 嬉しいことに11、22座り込み行動以来、「シベリア抑留」が国会で俄かに問題化して参りました。議員先生がやっと気がついてくれたのでしょうか、その原因は

*北朝鮮拉致被害者支援法の成立。*菅民主党の出現。*我々の座り込み。

この三つが巧く絡んで大きな成果が次々と出始めました。

1) 「シベリア抑留」をこのままで良いのか の質問

 “北朝鮮拉致被害者への支援は当然だが、同じ拉致や抑留のシベリア抑留をこのまま放置したのでは不公平ではないか!” “この寒空で老人に座り込みをさせて、政府が知らん顔で済むと思うか、” 臨時国会の各委員会でこのような発言や関連した質問が続きました。その議員は次の6名です。菅 直人(民主) 武山百合子(自由) 小沢和秋(共産) 大脇雅子(社民) 松岡満寿男(自由) 又市征治(社民)

 カマキリの会はそれぞれに礼状を出しましたが、その一例を同封しました。

2) 「日本の戦後処理問題に関連する質問主意書」を桜井 充議員(民主)が提出

 国会議員は国会法第74条によって文書で質問し、政府に回答を求める権利があります。桜井議員は主にカマキリの要望を纏めて12月12日実に厳しい質問状を参議院経由で出して下さいました。*捕虜の権利を放棄したのか、しないのか? *何故未払い賃金を払わないのか? *アメリカの捕虜裁判とシベリア裁判で政府の主張がまるで違うのは何故か?等を3条14項に渉って鋭く突いた内容で、まさにカマキリの代弁です。近く総理大臣から文書で返答があるまで 詳しくはお知らせ出来ませんが、回答あり次第 主意書と合わせ公表いたします。

3) シベリア補償法案がいよいよ今国会に上程されます。

 12月26日菅 直人民主党代表が抑留者代表に立法化の取り組みと国会上程を約束してくれました。兼ねて長妻 昭議員(民主)の手で進められていた「シベリア抑留特別給付金支給法案」は全党的同意が得られず、お蔵入りになっていましたが、今回の鳩山退陣で菅さんの天下になり復活し、漸く民主党案として提出されることになりました。いよいよ日の目を見て国会のテーブルに法案と言う料理が出されるのです。あとは議員の先生が食べて呉れるか、どうか?三分の二の票が必要、取れれば給付金が出ます。野党提案に自民、公明の与党がどう応ずるか? 至難です、数が足りません。

 抑留者全員が死力を尽くして与党議員を説得できるか、多年の宿願が叶うか、今までのように捨てられるのか 勝負はこの一点に掛かっています。

 機微を要するため法案の内容は上程まで公開できませんが、今の段階ではこれ以上望めない希望と名誉を持つもの といえましょう。

4) 小泉訪ロへの要望と抗議

 折角ロシアへ、ハバロフスクへ行くと言うので要望しましたが、「シベリア抑留」についての抗議や発言はひと言もなく、おめおめと手ぶらで帰った不甲斐無い小泉総理に対し、同封の抗議文を出しました。

5) サンケイ新聞の「シベリア抑留」関連報道

 1月22日、23日のコピーと、それに対する投書2通をご覧下さい。ボツにされても効果があるのだそうです。どうか皆さんも地元の新聞に出してください。

6)関西ではこの1月に法案上程後の作戦として衆参全議員の理解と法案採決を依頼するため、地元全議員の歴訪運動を実施しています。今後も数次に渉り手を変え人を代えて続行致します。それらの依頼書を参照下さい。これが最後の唯一つのチャンスとなりましょう、戦友会、縁故を総動員して一人でも多くの議員先生に賛成の手を挙げて頂きたい、長年の宿願達成のため各位に呼び掛ける次第であります。

7)また2月には街頭へ 出て市民に呼び掛けます。マスコミの力を借りて「シベリア抑留」の理解と署名を訴えます。大阪、神戸、京都の中心地で何回も決行する予定、他地区の方々におかれましても出来る範囲の独自の運動をお願い致します。

8) 終わりに

 1年前と今はまるで別の世界のような違いです。老人でも力を合わせてやればそれだけの効果はあるもの、希望も湧いてくるものだと知りました。カマキリはこれらの運動に参与して非力ながら努力を続けています。「シベリア抑留」の総決算としてこの一年、黒パンを食った仲間なら誰、彼、何派、何党を問わず法案成立の一点に結集して燃え尽きようではありませんか。関東軍兵士の誇りのために・・・・・

 その陰にご支援下さった方8名を昨年失いました。痛恨に堪えない所、謹んでご冥福を祈り追悼の意を捧げます。

  衆議院議員 山本一太氏への書簡               2003.2.14.

 捕虜の労働賃金を支払うのは抑留した国であるのか、それとも捕虜の所属する母国であるのか? 教えていただきたいのです。

 このことを自民党では何方に伺えば良いのかを消息通に尋ねたところ、衆院では河野太郎さん、参院では外交事情に詳しい貴方だと聞きました。

アメリカの裁判で

 大戦中に日本軍の捕虜となり、強制労働をさせられた元米兵が日本企業に謝罪と未払い賃金の支払いを求めた訴えは、2月6日カリフォルニア州上級審によって棄却されました。その理由は “彼らの請求権は平和条約で放棄されている。” との日本側の主張が認められたからです。日本政府は “請求権は既に放棄されているから我国に賃金支払いの義務はない” というのです。

日本では

 ところがシベリアに抑留された元日本兵が、国を相手に同じ未払い賃金を求めた裁判では“日本国民の有するいかなる請求権をも放棄していない”といって払いません。

 ?

 即ち抑留国としても捕虜の所属国としても、両方とも支払いの義務はないというのです。いったいシベリア抑留の未払い賃金は誰が払うのでしょうか?

お願いとは

 このように伺う本心は “アメリカで支払義務を免れた理由で、逆の立場にあるシベリア捕虜に支払義務が生じたのは当然ではないか” といいたいのであります。

 シベリア抑留は世紀の大拉致事件でありながら、今に至るも放置されたまま、60万の犠牲もそのままです。この不条理を天下の自民党はどういうわけか冷淡で、老兵たちの声がまだ届かないのは残念で理解に苦しみます。国際法に基づく強制労働の賃金を払ってほしいというささやかな願いに、どうか耳を傾けていただきたいのです。

 貴方が野党に置くには惜しい人物だと言われた桜井 充議員はシベリア抑留に詳しい方です、どうか話を聞いて下さって外交委員会等で質問して下さい。声なき抑留者の口となって・・・・

 何卒余命いくばくもない老兵たち多年の宿望達成に一臂のお力を賜りたく、切にお願い申し上げる次第です。

  参議院議員 桜井 充氏への書簡  1            2003.2.27

 「シベリア抑留」に対する国の心得違いを糾すには急所を抉らないと逃げられてしまいます。なにしろ際限なく間口が広い問題ですから、このツボ探しが大変で、それでなくても外そう逃げようの役人が相手では容易に押さえ込めない、これが四年間の裁判で得た経験です。今回はその急所らしき点を少し申し述べたいと思います。

          所感

1、シベリア抑留者の労働賃金を支払うのは日本かソ連か?

 1) それを問う理由

 “政府としては、いわゆるシベリア抑留者に対し、当該抑留中の労働に係わる賃金の支払いを行う法的義務を負うことはないと考えている” これは過日の小泉総理の答弁書ですが、“俺ではないよ” と言うからには“その支払人ならソ連だよ。” とハッキリ言わない以上答になっていない、戦後58年未だに支払おうとしない不徳漢は日本、ソ連の二国以外にはないのですから・・・。

 2) その立証責任は日本国にある

 我々はその支払責任は日本だと 証拠を挙げて長年請求し続けました。それを今になってソ連だと言うのであれば、国はその証拠と論点を明らかにして世界に説明する義務があります。

 前の大戦で不運にも捕虜となり、抑留中の労働で生じた賃金、若しくはそれに代わる補償金を受け取っていない捕虜は日本のシベリア捕虜とソ連の元捕虜だけと聞いています。(同じ日本捕虜でも中国や南方からの捕虜が、日本政府から賃金を受け取っていることは周知の事実です。)その殆どは自国民自国払い補償で、それぞれの母国が支給しているのです。国際法に加盟してそれを遵守している世界の国や人々に “捕虜に労賃など支払う義務はない。” とその理由を公表して、なるほどその通りだ!と納得させる責任が我国にあります、ただ一国支払わない国として・・・・。

 3)国はそれをどのように主張するのか Q.A

 @ Q、そもそも捕虜に賃金など発生する訳がない

A, そうでしょうか、いかに捕虜とは言え奴隷ではありません。ハーグ陸戦ノ法規第6条を御覧なさい。“俘虜ノ労銀ハ、其ノ境遇ノ艱苦ヲ軽減スルノ用ニ供シ、剰余ハ解放ノ時給養ニ費用ヲ控除シテ之ヲ俘虜ニ交付スヘシ”とあります。また“抑留中の労働に係わる賃金の支払いを行う法的義務を負うことはないと考えている。(答弁書二の2)” と言われるからには、賃金の存在そのものと捕虜の受け取る権利はお認めになっているのですね。

 A Q, その支払義務は労働の利益を受けた者即ちソ連である。

 A, その通り。1929.ジュネーヴ条約第4条の “俘虜ノ勘定ノ貸方額ハ拘束ノ終了ニ際シ俘虜ニ支払ハルヘシ” ですが、しかし最終的義務者は実は我国日本であるのです。“捕虜の労賃は支払わるべし” の原則から抑留国、所属国のどちらにせよ一旦は捕虜に支払って清算するのが国際法のルールですが、これは一時の立て替え払いに過ぎません。どちらが負担するかの最終義務国は講和会議、またはそれに代わる条約で決められます。(日露戦争のときの捕虜給養費はそれぞれ双方の抑留国が立て替えて払い、最終的にはポーツマス講和会議で相殺し、ロシアが差額5000万円を払って清算しています。ただし、当時に労働はなく、労賃は発生していません。)つまり一時の立て替え者と最終負担者は別で、その決着は1956年の「日ソ共同宣言」で日本であると確定されました。

 B Q,「日ソ共同宣言」でそんなことを決めた覚えは無い

 A、国が答弁書で言う第6項には “日本国及びソヴイエト社会主義共和国連邦は、1945年8月9日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。” と規定しています。それがため捕虜の持つ賃金請求権はすべて放棄され、国の言う“労働の利益を受けたソ連の支払義務”までも消滅して、もう一方の当事国である日本政府が一切の支払義務を負うことになりました。

 C 唯一の評価点

 我々は答弁書の二の4の冒頭を評価いたします。“いわゆるシベリア抑留は、人道上問題であるのみならず、当時の国際法に照らしても問題のある行為であったと認識しており、・・・・・ポツダム宣言第9項に違反したものであったと考える。” とはこの国にしては珍しい正しい見解であります。しかしながら・・・・“いわゆるシベリア抑留に係わる請求権の問題は、同国との間においては既に解決済である。” と続くのは何事か、どのように解決されたのか 私は寡聞にして知りませんが、その内容をこの際ハッキリ承りたい。国はこの宣言の第6項で放棄されたのは請求権ではなくて、労働賃金の支払い義務とでも勘違いされているのではあるまいか。条文の何処に捕虜の労働賃金が消滅したと書かれているのか、捕虜の名誉と権利を無視した解決とは一体いかなる談合であったのか、明らかにして貰いたい。

 これらは1949年ジュネーヴ条約第6条の “・・・・・捕虜の地位に不利な影響を及ぼし、またはこの条約で捕虜に与える権利を制限するものであってはならない” に著しく違反するものであります。

 D 自分ではない と言うのなら、相手のソ連を積極的に論及されよ

 自己弁明はおやめになって、強く、積極的にソ連の責任を論攻されないと身の証が立ちません。それが出来ないならば潔く支払いに応じられるが道理と言うものです。

 以上の通り国はどのように弁明しようと 未払い賃金の最終支払い義務を免れることは出来ない。

2、捕虜の請求権は放棄したのか、していないのか

1) アメリカの裁判で

 大戦中に日本軍の捕虜となり、強制労働させられた元米兵が日本企業に謝罪と未払い賃金の支払いを求めた訴えは、2月6日カルフォルニャ州控訴審によって棄却されました。その理由は “彼らの請求権は平和条約で放棄されている” との日本側の主張が全面的に認められたからです。日本政府は “請求権は既に放棄されているから賃金支払いの義務はない” と言います。

2) 日本では

 ところがシベリアに抑留された元日本兵が国を相手に、同じ未払い賃金を求めた裁判では “日本国民の有する、いかなる請求権をも放棄していない” と言って払いません

3) 二枚舌ではないか

 即ち抑留国としても捕虜の所属国としても、両方とも支払の義務はないというのです。これは明らかに二重基準だと思います。一体シベリア抑留の未払い賃金は誰が払うのでしょうか?

 問うまでもないこと、アメリカで支払義務を免れたその理由で、逆の立場にあるシベリア捕虜に支払義務が生ずるのは明らかであります。

3、問題点について

1) これらは急所に触れたツボであろうと思いますが、我々はこれを武器に構築する戦略戦術を知りません。

2) 未払い賃金を国際法に則って要求するのが最も早く、判り易い道ではないでしょうか、法的にも国際法、憲法第98条で充分、南方組に支給のときも特段の立法措置を講じずとも実施されています。

3) 行政の自由裁量の利く国内法の舞台へ引き込まれては、相手の自家薬籠中のテクニックに翻弄される危険があります。

4) しかし、現実問題として、いま進行中の補償法案が国会に出される場合、これの援護となるのであれば、それもまた良しと考えます。

5) アメリカの場合、棄却された米兵捕虜には立法解決も期待されています。また放棄した国の責任を問う声もあるとか、法律の不備により救済がなされない者には、道義的見地からの立法府使命が働いてこそ 成熟した民主国家ではないでしょうか。

 取り急ぎ思いつくままを申し上げました。ご検討下さってお取り上げ賜りますよう偏にお願いいたします。

 参議院議員 桜井 充氏への書簡 2               2003.3.1.

  重ねてのお願い

 “なんと頭の巡りの遅いことか” と呆れながら、私はいま喜びを噛みしめているところです。提訴以来4年もかかって漸く問題の急所掴んだからです。それは先生の親切な問い合わせを受け、なんとか良い返事をと苦しんだ末に浮かんだひらめきで、実に簡単なことですが、これこそシベリアを解決するポイントだと思います。

 前大戦による捕虜の未払い賃金は勝ち負けに係わらず、それぞれの捕虜所属国が支払う。のが、世界の定めであったのでした。

 その法的根拠

 サンフランシスコ条約第14条b項及び「日ソ共同宣言」第6項並びに国際法、国際慣習法です。

 その理由

 捕虜の有する未払い賃金の最終支払義務者が前述の条約及び宣言で、所属国であることに気が付いたからです。世界の当該国はその決定を遵守し、国際法、国際慣習法に基づいてそれぞれの義務を果たし、また果たそうとしています。(我国の南方帰還捕虜に対する措置もこの一端です。)

 その証拠

 最終義務者は母国である捕虜所属国にあることは、本年2月6日、カリフオルニャ州控訴審判決、及び昨年10月11日東京高裁判決で明らかです。

 この簡単なことがどうして今まで気が付かなかったか

 「個人の請求権」を相互に放棄する という前述第6項を字面だけで読み流していたからです。そして “放棄したのならその責任上国が補償して当然” と国内法の方向へ目が行ってしまったのです。そうではなく第6項こそ “未払い賃金はそれぞれの母国が払うのだよ” とはっきり決めているのでした。国は早急にその義務を果たさねばなりません。そうでないと49年ジュネーブ条約第6条の “・・・・捕虜の地位に不利な影響を及ぼし、またはこの条約で捕虜に与える権利を制限するものであってはならない“のユスコーゲンス(強行規定)に著しく違反し、憲法第98条に背くものであります。

 今後の方向

 私は法定代理人とも相談し、できればアメリカ判決の証拠を添えて最高裁へ「補充書」を出したいと思います。

 国会でも白黒を

 われわれは国会で主張する口を持ちません。どうか60万の声なき声を政府にお届け下さいますよう懇願申し上げます。

  レスター、テニー氏の出版記念会での祝辞         2003.3.19.

 尊敬するテニーさん

 貴方にとって憎しみとその半分ほどの愛が入り混じったこの国へようこそ・・・・

 私も貴方と同じ世界大戦の捕虜であります。私たちは今まで会ったことはありませんが、実に似た点が多いのに驚きます。

私は6日前、この世に生まれて3万日を迎えました。計算してごらんなさい、82歳ともなればそうなります。テニーさんも3万日の筈です、同じ82歳と聞きましたから・・・・・・

二人は人生の4%に当たる約1000日余りをともに捕虜として自由を奪われました。この僅か4%のことで貴重な晩年のときを費やしているのも同じです。そして帰還してからの人生、これもまた悲しいほど似ています。それよりも更に似た話を皆さんに聞いてもらいましょう。

 私はある日、朝日新聞で初めて彼の辛い体験と主張を知りました。それは次のような内容でした。 “和解には赦しと責任のどちらが欠けても無意味だ。もし日本政府と企業が迫害の責任を認めるならば、私は赦そう” というのです。彼や私が受けた屈辱と憎しみはそう簡単に赦す気になれるものではありません。しかし赦さなければ彼自身が救われない、また私にとってもいま国と判りあわないことには私自身も心和むことなく人生を閉じることでしょう。この私の言いたいことをそのまま、彼は言ってくれました。

 それから、私は貴方と同じ理由で日本政府を相手に裁判をしています。私たちは国際法で定められた未払い賃金の支払いを要求しています。労働をして賃金のないのは奴隷です。われわれは勇者でなくとも奴隷にはなりたくないのです。

 しかし彼と私は違うところも多々あります。テニーさんも私同様、裁判官の支持は得られていないようですが、その代わり母国と国民の厚い支持と理解のうちにいます。これはとても羨ましいことなのです。私たちの国と社会は貴国のように捕虜を名誉ある勇者とは見てくれないのです。

 次はもっと大きな違いです。日本はアメリカの法廷で “アメリカは平和条約で賃金を要求する権利などすべての権利を放棄しているから、今は日本に支払いの義務はありません” といって貴方の訴えを退けました。一方日本の法廷では “ソ連に対して君たちシベリア捕虜の請求権まで放棄した覚えはないから、支払う必要はない” と正反対の主張で支払いを拒んでいます。つまり二枚舌を使って両方に払わないのです。この芸術的な二重基準を皆さんはどうお考えでしょうか。

 私はひと言 愛する祖国の名誉のために弁明したいと思います。この国が正しいことと、そうでないことの判断よりも、トクかソンかで動くようになったのはごく最近のことなのです。本当は道義を重んずる誇り高い民族でありました。この本を見て下さい、長谷川 伸の 「日本捕虜志」 です。僅か100年前の日露戦争まではサムライの武士道が生きていまして、捕虜の扱いでは世界一立派であると各国に絶賛されました。それが一転して悪くなったのは悪しき軍国主義のせいで、その残渣に私もテニーさんも、またアジアの多くの人々が苦しんでいるのです。

 しかし法律があるかないかの論議よりも、人間として正しいか、否かの判断が大切なことを、100年前の日本に帰るべきことを、この国は早く思い出すべきです。テニーさんのご本はそれらを教え、この国で多くの共感を生み出す力になるでしょう。

 私は敬愛する友に香月泰男の画集を贈りたいと思います。「シベリアシリーズ」、 この画家は囚われの苦しみと生きる希望を描いたわれわれの虜友です。テニーさんならこの絵の心を汲み取って下さると思うからです。

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