<その3> 跳んできし 蟷螂すでに 怒りいし <朝日俳壇> 2002.9.11 |
上告理由書 (要約) 2002.9.11. 第1 憲法29条違反 1日ソ共同宣言による請求権放棄 同宣言第6項「…日本国及びソビエト杜会主義共和国連邦は、1945年8月9日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。」に明示されたとおり、私的請求権をも包括的に放棄したものである。
2上告人らの有した請求権 * ソ連に対する捕虜の労働賃金の請求権 (1907へ一グ陸戦法規第6条) * ソ連に対し労働は過度なるべからずの違法行為に対する損害賠償請求権 * ソ連に対する給養費請求権
3正当な補償の欠落 * 正当な補償をなすことなく上告人らの権利を奪うことは憲法第29条3項に違反 する憲法の処分行為といわざるを得ない。 * “シベリア抑留は戦争損害の一つであり、これに対する補償は憲法第29条3項 の予想しないところ…" という没理論的判示に対してあらゆる角度から論破し、カ ナダ判例の安易な引用の不当をも主張、このような被害は予想し得ない処か容易に予想し得たことを厳しく追求している。
第2. 憲法に基づく国家補償請求 1その請求権 * 国家賠償法2条は国の落ち度を咎めてその責任を追求する制度というよりも、今や国民が国から偶然に蒙った損害を公の手で連帯して填補する杜会保障的な色合いを持つ、とする原田尚彦学説。憲法第29条3項は「破られた平等の理想を元に復し、特定の一人に帰した負担を社会の全員の負担に引き直すために認められたものが損失の補償」であるとする「平等負担」の観点 (憲法第14条) の柳瀬良幹学説。「生存権補償」「生活権補償」の観点からの国家補償を説く下山瑛二学説を網羅して、国家にはその活動によって国民に直接、間接の損害を与えた場合には、これを救済すべき義務があることを主張している。
2 日本国とシベリア抑留 * シベリア抑留は国の国際法に無理解な捕虜政策及び終戦処理政策に基づく特 別犠牲である。 * 即ちシベリア抑留は国体護持のため60数万の将兵をソ連に引渡し、それはソ連 に対する役務賠償であったことを詳細かつ正確に述べている。 国は捕虜の人道的待遇及び早期帰還について万全を期すべきであったにも拘らず、その活動は微々たるものであり、また明治政府が行った心のこもった救済を何一つしなかった非情と解怠について鋭く追及している。
3上告人らの強いられた特別犠牲
第3 憲法第14条に基づく労働賃金請求について 1 原判決の判示 * 上告人らは南方捕虜との取り扱いが不平等であり、憲法第14条に反する旨を主張したが、原判決は労働註明書を所持しないことを理由に差別ではないと訴えを退けた。
2 理由不備 * その実態である労働環境、及び労働条件について、南方とシベリアを5章に渉って対比し理由不備を激しく追及している。 そして現時点に於いては労働証明書は発行され、現に存在しているのである。
3 憲法14条の解釈
第4 憲法第98条2項違反 1 現判示は49ジュネーブ条約66条、68条、及び国際慣習法に基づく上告人らの請求は、いずれも理由がなく採用することができないとして退けた。 この判示は講学上典型的な人道法条約であるとされる49ジュネーブ条約の解釈適用について、同条約のもつ法典化条約としての特質を見落とし、同条約の66条、68条、134条、135条の解釈、適用を誤り、ひいては憲法第98条2項に違背したものである。 2 49年ジュネーブ条約66条、68条の上告人らに対する適用について 人類は18,19世紀からの多年に渉る戦争経験の反省から、捕虜は人道を以って取り扱われるべし を基本原則として今日に継承されたもので、その法精神は原判決の言うような昨日今日のものではない。 * 捕虜の労賃は支払らわれるべしとするのは、捕虜の人間的生存、尊厳に関する国際法の基本原則であり、条約や国家主権によっても侵し得ず、かつ放棄をも許されないユス、コーゲンス(強行規範)である。49ジュネーブ条約135条は 「ハーグ条約に付属する規則の第2章を補完するものと す」 と規定している。しかるに原判決は、これらの深い関連を見落とし、皮相な縮小的理解に終わっている。 * マルテンス条項の示す国際法原則の法典化に照らしても、49ジュネーブ条約に加入する前に発生または帰還した捕虜に対しても、当然に適用されると解すべきものである。 * 原判決の判断は、これら国際法規の解釈、適用を誤り、ひいては憲法第98条2項に違背したものと言うべきである。
3 自国民捕虜補償原則 (慣習法) の一般慣行及び法的信念 * 捕虜の労賃を受け取る権利、抑留国の労賃を負担する義務と、それを前提とした決済方法の問題は峻別されねばならないのである。原判決はこの点について全く理解が及ばず、あるいは理解を避け、その結果上告人らの捕虜としての労賃は事実上いずれの国からも支払われないと言う、おおよそ第二次世界大戦当時国際法上争いようのなかったユス、コーゲンスに反する結論を示したのである。つまり、仮に自国民捕虜補償の原則と言う決済方法を否定したとしても、それによって捕虜の労賃を受ける権利までも否定することはできないのである。一方で所属国決済方式を否定し、他方抑留国決済方式についてもその実現方法が無いことを理由に権利行使を認めないとすると、事実上捕虜の労賃を受け取る権利が否定されることになりかねないが、そのような本末転倒の論理を取り得ないことは明らかである。
* 第二次世界大戦当時どのような決済方法が国際法上認められ、どのような決済方法が認められなかったかと議論しても、その前提としての捕虜の労賃を受ける権利は確固たる権利として否定しようのないものであったことを見失つてはならない。
* 所属国払いを否定するならば、必ず抑留国支払い方式を肯定しなければならず、抑 留国払いを否定すれば必ず所属国支払い方式を肯定しなければならないのである。日 本国は、抑留国支払いも所属国支払いも履行しないと言う法解釈が国際法上許されると 考えたのであれば、その皮相な国際法理解は非難を免れないところである。
4 法的信念について * 我国が南方捕虜に支払ったのも、法的信念に基づいたものである。 * 世界各国いずれも法的信念に基づいて自国民捕虜補償を行っている。
5 国際法の探知義務 条約であれ慣習法であれ、国際法も裁判所によって適用される法規範である以上、裁判所の職権による探知義務は免れないところであるが、一向にその義務を果たすことなく、適用すべき法令の解釈、適用を誤ったのみならず、訴訟手続きの法令の適用を誤ったという意味において、二重の誤りを犯したといわざるを得ず、ひいては憲法第98条2項に違反するものである。 以上
上告受理申立の理由書(要約) 2002.9、11、 第1.49年条約66条及び68条の上告受理申立人らに対する適用について 1 現判示は自国民自国補償方式を約した1949ジュネーブ条約が出来る前に君達は帰還しているから、その恩典は受けられず、国にも補償の義務はないと言う。 2 しかしこの判示は同条約66条、68条、134条、135条等の解釈、適用の誤りでありひいては憲法第98条2項に違背したものであることを、また条約は遡及され上告人は充分にその権利と恩典に浴する旨を詳細に渉り反論している。
第2国際慣習法に基づく請求
1 自国の捕虜にはその国が一旦支払う方式はジュネーブ条約30条、66条、68条において明示され、特に実行を求められているユス、コーゲンス(強行規定)である。 2 捕虜の労賃等を受け取る権利とその決済方法について * 本件の争点は捕虜の労賃の決済方法であって、国も捕虜が労賃を受け取る権利まで否定するものではなかろう。 * そして最終的な労賃支払い義務者は労力を使用した抑留国(ソ連)であることも否定しないであろう。 * 但し捕虜への支払いは一旦所属国 (日本) で行い、最終決済方法は両国の取り決めによるのが国際法のルールである。 * 従って所属国支払い方式を否定するならば、必ず抑留国支払い方式を肯定しなければならず、抑留国支払い方式を否定するならば、必ず所属国支払い方式を肯定しなければならないのである。 第3 国家賠償法1条または不法行為に基づく損害賠償請求について * 国は日本人将兵をソ連に引き渡したとまでは言えない。 * ソ連が利益を得たことは事実であるが、法的には役務賠償とは認められない。 * 政府が抑留者を放置したとみるのは相当ではない。 * シベリア抑留は戦争損害であるから、これに対する補償は憲法の予測しないところ、補償立法義務は存在しない。 * シベリア抑留の根源、実態を審理するにあたり、その真相を知る証人として、控訴人ら は早くから瀬島龍三他二名の尋問を申立て、再度に渉り実施を要望したにも拘わらず遂 に実現を見なかったが、開かれた民主法廷にあるまじき審理不尽といわざるを得ない。 * 一般戦争損害ではなく、特別損害である。
第4 給養費問題 2 そもそも兵の給養は建軍以来官費により無償が原則であり、捕虜になることによっても否定されない。のみならず、国際法上からも認められた権利である。 3 即ちハーグの陸戦法規慣例に関する規則第7条1項は 「政府ハ其ノ権内ニ在ル俘虜ヲ給養スヘキ義務ヲ有ス」 と定めている。 4 また49年ジュネーブ条約においても、15条に「捕虜を抑留する国は、無償で捕虜を給養し、及びその健康状態に必要な医療を提供しなければならない。」と定めているのである。 5 このように国内法、国際法いずれにおいても兵、捕虜に対する給養義務は重視されているのである。加えて、兵が捕虜になることによって (即ち、抑留国から給養を受けるようになったとしても) 捕虜所属国の給養義務がなくなるわけではない。
6 “敵の管理下に入れ、命令に従わない者は厳罰に処す" の勅命により捕虜となり、強制労働にあえぐ時、一片の通牒によって従前行われていた給養が突然行われなくなり、糧道を断つと言うのは、人道に惇る行為であって、それが祖国の本心であるとは思えない。 以上 給養費問題は憲法違反のみを争う最高裁への上告は難しいので、重大なる正義の侵害として受理申立の方で提訴致しました。 |
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